――――――…………
――――……
「それじゃ、帰るね」
一通りヒナタくんと喧嘩を遣り終えたシントは、満足そうに笑って腰を上げる。どうやらM気質までうつってしまったらしい。ま、それはわかりきったことか。
「シント、帰るの……?」
「うん。直接お礼言いに来ただけだし。足りないけど充電できたし。日向くんに喧嘩売れたし」
「売れたってあなた……」
あのあと、本気で組み合いをし出した二人は結構砂まみれ。シントは平気な顔して服の土を払っているが、ヒナタくんなんかは疲れ果てて未だに息を整えている。……そこは、さすがというべきか。
最中は相変わらずトーマさん、頼まれた仕事を全うしておられましたけど。
「それに仕事途中で放り投げてきたからね。そろそろ帰らないと商談に遅れる」
「そんなことまでしてるのね……」
「ああ。俺が直接やってるわけじゃないよ? 変なことしないよう監視してるだけ。今日はアキの体育祭でみんな出払ってるから」
「じゃ、一人寂しく留守番してくるよ」と、彼は後ろ髪引かれることなく手を振って立ち去っていった。
「それじゃあ俺も、堂々とみんなの写真撮りに行ってくるね」
「またね、あおいちゃん」と、ぽんと頭を撫でたトーマさんも、シントとは別方向へ歩いて行った。……そこで一つ疑問が。
「ねえ、カエデさんに置いていったメモって……?」
君の口振りだと、彼も今日ここに来てるんじゃないのかい? 現当主と一緒に。
……まあいいや。ちょっと気になるけど。でも、今は気にしてはいられないんだ。
「さあ、覚悟はできてるよねえ」
さっきとは比べものにならないくらいの窮地に立たされているのでね。
ひ、ひとまず落ち着こうヒナタくん。どうどう。もうちょっとね? 荒れた息とか体力とか、回復させたらいいんじゃないかな? わたし、その間に逃げるからさ? 10秒数えたら追いかけてきてね? それじゃあ行――
「ねえ」
「あ。ハイ。スミマセン……」
行ケマセン。目の前の人本当に怒ってる。
取り敢えず、今現在に至るまでの経緯を寸分違えることなくご報告しました。正座で。
「で。オレが言いたいことはもうわかってるよね」
と、凄んだ声に体がビクッと震える。
「……で、でも」
「でもじゃない」
「ヒナタくんだったら、放っておくの……?」
「放っておく以前にテントを離れるときのルールは」
「【きちんと誰かに報告する】……です」
「へー。わかってたんだー」
しゅんと小さくなるわたしに、彼は徐に自分の髪の毛をクシャリと握り。
「……お願い、だから」
「っ、わっ!」
そして、大きく大きく息を吐くように、そうこぼしたかと思ったら、腕を引っ張ってわたしを腕の中に閉じ込める。
「……残されるオレのこと、ちょっとは考えて」
「……ご、ごめん。なさい……」
「……ん。わかってくれればそれでいい」
その声が、今にも泣き出してしまいそうに聞こえて。その腕が、小さく震えているように思えて。
「……あおい?」
「ごめんなさい。もう、しない、です」
また、感じたいやな胸騒ぎに。わたしも、抱きしめる腕に力を込めた。
「……って言うけど、無理だと思うよオレ。やる方に一票」
「入れる前に止めて」
「……やるんじゃん」
「精一杯努力はします」
「是非ともよろしく頼む」
「うむ。承った」
――――……
「それじゃ、帰るね」
一通りヒナタくんと喧嘩を遣り終えたシントは、満足そうに笑って腰を上げる。どうやらM気質までうつってしまったらしい。ま、それはわかりきったことか。
「シント、帰るの……?」
「うん。直接お礼言いに来ただけだし。足りないけど充電できたし。日向くんに喧嘩売れたし」
「売れたってあなた……」
あのあと、本気で組み合いをし出した二人は結構砂まみれ。シントは平気な顔して服の土を払っているが、ヒナタくんなんかは疲れ果てて未だに息を整えている。……そこは、さすがというべきか。
最中は相変わらずトーマさん、頼まれた仕事を全うしておられましたけど。
「それに仕事途中で放り投げてきたからね。そろそろ帰らないと商談に遅れる」
「そんなことまでしてるのね……」
「ああ。俺が直接やってるわけじゃないよ? 変なことしないよう監視してるだけ。今日はアキの体育祭でみんな出払ってるから」
「じゃ、一人寂しく留守番してくるよ」と、彼は後ろ髪引かれることなく手を振って立ち去っていった。
「それじゃあ俺も、堂々とみんなの写真撮りに行ってくるね」
「またね、あおいちゃん」と、ぽんと頭を撫でたトーマさんも、シントとは別方向へ歩いて行った。……そこで一つ疑問が。
「ねえ、カエデさんに置いていったメモって……?」
君の口振りだと、彼も今日ここに来てるんじゃないのかい? 現当主と一緒に。
……まあいいや。ちょっと気になるけど。でも、今は気にしてはいられないんだ。
「さあ、覚悟はできてるよねえ」
さっきとは比べものにならないくらいの窮地に立たされているのでね。
ひ、ひとまず落ち着こうヒナタくん。どうどう。もうちょっとね? 荒れた息とか体力とか、回復させたらいいんじゃないかな? わたし、その間に逃げるからさ? 10秒数えたら追いかけてきてね? それじゃあ行――
「ねえ」
「あ。ハイ。スミマセン……」
行ケマセン。目の前の人本当に怒ってる。
取り敢えず、今現在に至るまでの経緯を寸分違えることなくご報告しました。正座で。
「で。オレが言いたいことはもうわかってるよね」
と、凄んだ声に体がビクッと震える。
「……で、でも」
「でもじゃない」
「ヒナタくんだったら、放っておくの……?」
「放っておく以前にテントを離れるときのルールは」
「【きちんと誰かに報告する】……です」
「へー。わかってたんだー」
しゅんと小さくなるわたしに、彼は徐に自分の髪の毛をクシャリと握り。
「……お願い、だから」
「っ、わっ!」
そして、大きく大きく息を吐くように、そうこぼしたかと思ったら、腕を引っ張ってわたしを腕の中に閉じ込める。
「……残されるオレのこと、ちょっとは考えて」
「……ご、ごめん。なさい……」
「……ん。わかってくれればそれでいい」
その声が、今にも泣き出してしまいそうに聞こえて。その腕が、小さく震えているように思えて。
「……あおい?」
「ごめんなさい。もう、しない、です」
また、感じたいやな胸騒ぎに。わたしも、抱きしめる腕に力を込めた。
「……って言うけど、無理だと思うよオレ。やる方に一票」
「入れる前に止めて」
「……やるんじゃん」
「精一杯努力はします」
「是非ともよろしく頼む」
「うむ。承った」



