すべての花へそして君へ②


 着実に同時スタートした人たちが借りることに成功している今、【1番】の旗はさすがのあおいさんでも無理そうだ。


「というか月雪はそれでいいのか?」

「……? 九条さん、どういう意味ですか?」


 心の中でため息をついていると、九条さんがなぜかそんな質問を飛ばしてくる。……ああ思い出した。そういえば去年、東條さんは彼に運んでもらってたっけ。変換ってそういうこと。


「バカだねレン。女に運んでもらうなんて、男としてのプライドはないのって話をしてるんだよ」


 プライドも何も。そもそもただの競技だろこれ。


「逆を言えば、あおいさんに運んでもらえる又とない機会だ」


 男のプライド皆無な発言に、みんなして目が点になってるけど……でも、要はそういうこと。
 彼女がこの腹立つ奴に奪われてしまった今、きっと頼んだら笑顔でしてくれるだろうけど、堂々とできる機会はそうそうない。そして、彼女の力があれば体育祭で夢の【1番】が取れるかも知れないという、オレにとってはこれ以上ない機会!
 これを男のプライドなんかで邪魔してしまっては、もったいなさ過ぎるだろ。


「レン。そのカード貸して」

「……何するつもりだ九条」

「オレが負ぶってもらう」

「断固として断る」


 やっぱ堂々も難しいかも知れない▼


 ――――――…………
 ――――……


「ただい――」

「おい! いい加減離せ九条! オレがあおいさんに負ぶってもらうんだ!」

「もう諦めなよ。ビリだよビリ。魂胆見え見えすぎて引くね。ビリでもオレが代わりに出てあげるよ。疲れたでしょ、レン。さあ早く」

「誰のせいでこうなったと!?」

「だから代わってあげるって」

「…………ま?」


 九条とカードの奪い合いでほぼ劣勢だったそのとき、救世主が現れた!


「おかえり……って、どうしたの? えらい疲れてるけど……」

「カナ……。それが」

「皇さん皇さん! いいところにっ! あおいさんを知りませんか?」

「……? ああ。葵なら今、呼び出しされてる」


 呼び出し?


「……アキくん」

「な、何だ日向……」


 カードから手は離れていったものの、目の前から凄まじく禍々しい雰囲気が漂ってきて思わず後退る。


「っと。すみませ」

「月雪、お待たせ」

「え?」


 後退った先にいたのは……え。く、九条さん……!? どうしてまた、元の恰好に……?


「よっこいせ」

「うわっ! ちょ、ちょっと待ってください九条さん……!」


 そうして担がれたオレが思ったのは三つ。
 ひとつ目は、あおいさんは結局どこに行ったのかなーってこと。ふたつ目は、皇さん大丈夫かなーってこと。


「んじゃ、行くぞー」


 最後のひとつは。……実は九条さんも、カードの奪い合いに参加したかったんだなってこと。