着実に同時スタートした人たちが借りることに成功している今、【1番】の旗はさすがのあおいさんでも無理そうだ。
「というか月雪はそれでいいのか?」
「……? 九条さん、どういう意味ですか?」
心の中でため息をついていると、九条さんがなぜかそんな質問を飛ばしてくる。……ああ思い出した。そういえば去年、東條さんは彼に運んでもらってたっけ。変換ってそういうこと。
「バカだねレン。女に運んでもらうなんて、男としてのプライドはないのって話をしてるんだよ」
プライドも何も。そもそもただの競技だろこれ。
「逆を言えば、あおいさんに運んでもらえる又とない機会だ」
男のプライド皆無な発言に、みんなして目が点になってるけど……でも、要はそういうこと。
彼女がこの腹立つ奴に奪われてしまった今、きっと頼んだら笑顔でしてくれるだろうけど、堂々とできる機会はそうそうない。そして、彼女の力があれば体育祭で夢の【1番】が取れるかも知れないという、オレにとってはこれ以上ない機会!
これを男のプライドなんかで邪魔してしまっては、もったいなさ過ぎるだろ。
「レン。そのカード貸して」
「……何するつもりだ九条」
「オレが負ぶってもらう」
「断固として断る」
やっぱ堂々も難しいかも知れない▼
――――――…………
――――……
「ただい――」
「おい! いい加減離せ九条! オレがあおいさんに負ぶってもらうんだ!」
「もう諦めなよ。ビリだよビリ。魂胆見え見えすぎて引くね。ビリでもオレが代わりに出てあげるよ。疲れたでしょ、レン。さあ早く」
「誰のせいでこうなったと!?」
「だから代わってあげるって」
「…………ま?」
九条とカードの奪い合いでほぼ劣勢だったそのとき、救世主が現れた!
「おかえり……って、どうしたの? えらい疲れてるけど……」
「カナ……。それが」
「皇さん皇さん! いいところにっ! あおいさんを知りませんか?」
「……? ああ。葵なら今、呼び出しされてる」
呼び出し?
「……アキくん」
「な、何だ日向……」
カードから手は離れていったものの、目の前から凄まじく禍々しい雰囲気が漂ってきて思わず後退る。
「っと。すみませ」
「月雪、お待たせ」
「え?」
後退った先にいたのは……え。く、九条さん……!? どうしてまた、元の恰好に……?
「よっこいせ」
「うわっ! ちょ、ちょっと待ってください九条さん……!」
そうして担がれたオレが思ったのは三つ。
ひとつ目は、あおいさんは結局どこに行ったのかなーってこと。ふたつ目は、皇さん大丈夫かなーってこと。
「んじゃ、行くぞー」
最後のひとつは。……実は九条さんも、カードの奪い合いに参加したかったんだなってこと。



