そのとき、キサちゃんの凜とした声が、次の競技の借り物競走開始を告げた。はてさて、今年は誰が理事長の犠牲になることやら。


「体育祭が終わってすぐ、百合との親睦会を予定している」

「アイくんから話は聞いたよ。いつの間にか仲良くなったんだね」

「元婚約者会の会長と副会長だからな」

「なんじゃそりゃ」


 道明寺のことで夏の親睦会は取り止めになってしまったが、そろそろ落ち着いてきたから秋はやろうかと。アイくんとも登校中の電車の中で話をしたことがある。


「それでだ。あの一件のせいでアイとカオルが生徒会不在になって、一人で仕事を引き受けた奴がいるらしい」

「えっ。でも百合って成績順で生徒会選ばれるんでしょ?」

「生徒会なんかやりたくないって。どうやらわざと成績を落としたんだと」

「そりゃまた……」


 ということはだ。成績はもうトップクラス。要領もよくて頭が切れる。んでもっていい性格の持ち主と。


「あんなことがあったから、そいつも生徒会に入って今は三人で回してるらしい」


 その人も今度の親睦会に参加してくれると。どうやら変な対立なくいけそうだな。


「アキラくんはもう会ったの?」

「あー。……まあ、そうだな」

「……? なんかあったの?」

「会ったらわかる」


 含みのある言い方が気にはなるけれど、どうやら彼の本題はここかららしい。


「……話を、した」


 それだけで、理解するには十分だった。


「それで?」

「はじめはさ、はぐらかされたんだ。何のこと? って」


 それだけ俺には隠したかったんだなって、思うとやっぱりどこか寂しくて。教えてもらえない俺は、まだまだなんだなって、言われてるような気がした。


「でも、その顔はちゃんと話を聞いたって顔だ」

「……どんな顔してる?」

「嬉しそうだよ」

「……それをわかるのは多分、生徒会でも葵だけだろうな」


 ふっと笑う彼は、伏し目がちに話を続ける。


『……ぁぁああ!! ごめんアキ! これじゃああのときと一緒だ。俺ばっかり結局逃げてる。言っとくけど、アキが力不足だからとか、心配かけたくないからとか、そんなのじゃないからね全然。どっちかって言ったらその逆だから。本気で俺の心配して欲しいわ。ご協力願いたいくらいだわ!』


「……それで? 話を聞いてなんて答えてやったの?」

「精々頑張れと」

「ぶはっ」


 そう言われたあとのあの子の顔が、目に浮かぶようだわ。


「手なんか抜く必要なんてどこにもない。とんでもなく優秀なのを知らないのは、馬鹿な奴くらいだ」

「ふふっ。そうだね!」