『只今より、桜ヶ丘高校体育祭を開催致します――』
開会の言葉に合わせ、ババババアアア――……と、大きな音を立てて広がるスローガンに、その場の全員が息を呑む。
昨年同様、日々の時間を惜しみなく使い、最高の出来に仕上げてきた作者たちは、ほら見ろと言わんばかりの誇らしい顔で――――
「……なぜわたしを見る……」
「え? だってそりゃ……?」
「ねえ~?」
まるでおやつを待っているわんこのようにしっぽを振りながら、今か今かとわたしの総評を待っていた。
「二人で個展開いちゃえばいいのに」
「……これって褒め言葉?」
「最高の褒め言葉だよ~かなちゃんっ」
今年のも、本当に素敵な出来だった。確実に二人の表現力が上がっていた。伝えたい思いがハッキリと浮き出ていた。
目で見て感じるだけじゃない。これを見てどう思ったか。体がどう反応したか。この身全体で感じ、そしてそれを大きく印象に残すような。聞こえは悪いが、【圧】があった。やっぱりすごいな、二人とも。
プログラムは去年と同じ。学年が変わったので出る種目はちょこちょこ違うけれど、慌てず騒がず。
「レンくん、大丈夫?」
新歓をすっぽかしたため実はこれが実行委員初仕事という、緊張で顔色があまりよろしくない彼のサポートに、わたしは徹していた。
「相変わらず体力ないね足遅いね見たよビリだったねちゃんと証拠写真に収めたから」
「あおいさんと一緒の係になれなかったからって当たってくるな九条」
「ほらヒナタくん。自分の持ち場に戻る」
「はーい」
ついでに、レンくんに突っかかる彼を追い払うのに追われていたりもする。
「なんで日本には体育祭なんてものがあるんですか……」
「今頃になってクオーターだってこと引っ張り出してもそんなに影響力ないよ。というか日本以外にもあります体育祭は」
競技が終わり、ヘロヘロになって帰ってくるレンくん。今年は一人で業者さんと遣り取りかな。
【タイヤに破損アリと報告
予備の場所は向こうも確認済み
交換でき次第もう一度連絡が来ます】
なんだかんだでフォローに回ってくれていたりするんだけど。でもレンくんにとっては来るたびのダメージが多いから、良いような悪いようなだな。



