そうやっておかしそうに笑ったあと、彼はすっと瞳を閉じ、そして神妙な顔つきになる。
「……本当はさ、言えるまでずっと隠してたかったんだ」
「隠されるのは……嫌だな」
きゅっと控えめに彼の服を掴むと、その上から包み込むように彼の手が重なり、もう片方の手はそっと頬に添えられる。
「ごめん。でも、あおいのそんな顔は見たくなかったから」
「そんなの……わたしだって」
「うん。だから、本当にこれはオレの……勝手な我が儘なんだ」
「まあ、結局は全然隠し切れてなくて今に至るんだけど」と、肩を竦めながら小さく息をつく。
「……もうちょっと。言えるようになるまで時間が欲しい」
「わたしが言いたいこと、わかってるって顔してる」
「知りたがりさんだからね。今すぐ知りたいんでしょ?」
「それに否定はしないけど、でもただ知りたいって訳じゃなくて、んむ」
言いかけた唇にそっと指を這わせ、彼はやさしく塞ぐ。それだけで。それと困ったように笑う顔だけで。
ありがとうと。大丈夫だよと。オレのためだよねと。そう言われているようで、続きの言葉を紡がせてはくれなかった。
「絶対。絶対言うから待ってて」
「……プロポーズは」
「は?」
「プロポーズは、それが言えるようにならないと言ってくれないの……?」
その代わりに振ったぶっ飛んだ話に、彼はただ、目を丸くするばかり。
「こだわるねー」
そうしてふはっ、と軽く噴き出して笑う。軽くツボったらしく、震える肩はしばらく止まりそうにない。
「そ、そりゃこだわるよー? 一生に一度の、大切なことですからねっ?」
一緒に生徒会をし始めた頃は、彼の笑った顔なんて指が一本折れるか折れないかぐらい、本当に見たことがなくて。その貴重さに、槍が降るんじゃないかとビビったり有り難さを拝んだりしたこともあった。
いや、つまり何が言いたいのかと言ったら、その貴重な笑顔が今ではいっぱい見られて嬉しいってことで――
「ははっ。……あーそうなの? ふーん。まあ、もうちょっと待ってねー」
「ちょっと。さらっと流すなさらっと」
だから、そんな悲しそうな、寂しそうな顔はしないで? わたしがいつだってどこでだって、君を笑わせてあげるから。
「ヒナタくん」
「ん?」
でも君が、待っていて欲しいと。……そう言うから。
「待ってるよ、ちゃんと」
「……ん。ありがとう」
「でもね、わたしにもさすがに限界というものがあるから……」
だからそのときは、容赦なく聞くから。泣いても怒っても黙りしても。……たとえまた、寂しそうな顔しても。
「……うん。それでいいよ」
「よーしっ! それじゃあこの話は終わり~! お花畑、ぐるっと回ろう? 写真もいっぱい撮ろー!」
だから、絶対に教えてね。今度はわたしが、絶対に君を助けてあげるから。



