「くあ~……」

「あは。眠そうだね?」

「そりゃね。あんま寝てねえし」

「そう? わたしはそこまで眠たくないよ」

「でしょうね」

「……?」


 彼が大きな口を開けて欠伸してしまうのも仕方がないのだ。
 実は朝風呂バトルが行われたのは、朝の6時だったりします。習慣がついてしまっているもので、大抵何時に寝ても朝はパッチリ覚醒。学校のある日はもう少し早く起きますけど。
 その後、無事にご主人様のご機嫌が取れたわたしは、何とかパンツの奪還に成功。……今日ワンピースだったから本当に焦りました。


『じゃあ今度は全身洗わせてね』


 パンツの代わりの犠牲は大きかったですが。


「うわ……。鳥居大っきい……」

「こっからもうちょっと歩くよ」

「はーい」


 そして午前中は京都の名所を観光。昼食を食べたわたしたちは、とある場所へと足を運んでいた。
 せっかくの京都。ならばあそこへも来なければいけないだろう。


「……ここ、に?」

「そう。今はもう、跡形もなくなってるけどね」

「……そう、みたいだね」


 メインの大きな神社は残っていたものの、裏で大きく動いていた悪意は、何事もなかったかのように綺麗さっぱりなくなっていた。
 ここへ来たら、一言ガツン! と言ってやろうかと思ってたけど。今はもう、あの望月はここにはない。


「……あ」


 少しだけ、土の色が違うところがある。声を上げたわたしに、「そうだよ」と返す全てお見通しさん。


「……ちょっとね? 見てみたかったの」


 母が長い間、閉じ込められていた小さく古びた社。その中に入っていたものにも、結構興味があったり。


「無理して笑わなくていいよ」

「え? ううん! 全然無理してないよ?」


 これは、本当に。だってここは、そんな辛くて苦しい思い出もたくさんあるんだろうけれど――――


「それ以上に、きっと素敵な思い出もたっくさん詰まってるだろうから」


 そっと、胸に手を当てる。
 ここに、ちゃんと残ってるんだ。愛で溢れた、二人の素敵な恋が。


「……そっか」

「うんっ」


 母から父から、直接聞いたけれど……それでもきっと、まだ全部ではない。
 酷いこともあっただろう。つらくて耐えきれないこともあっただろう。そんな思いさえも、わたしは共有して欲しいけれど。彼らの思いも、わからないわけじゃないから。
 全部聞かないと気が済まない。……そんな子どもっぽい考えは、ぐっと堪えて胸の中にしまっておこう。