「はあ。はあ。はあ……」
とことんいじめ抜かれました。
「ごめん。やり過ぎた……?」
「だ、大丈夫。です……」
ただ、少しばかりぼうっとして、目がチカチカするくらい。そんなわたしを抱き留めてくれたヒナタくんは、腰に回した腕を引き寄せ、その少し空いた距離をなくした。
「……ヒナタくん」
「ん?」
「おなかに、何かが当たっておりまする」
「……生理現象なので気にしないで」
そんなことをつい口に出してしまったもんだから、彼の意地悪な笑顔とともに再び開始のゴングが景気よく鳴ったのだった。
――――――…………
――――……
「……おーい。逆上せた……?」
「だ、だいじょぶ……」
容赦ないんだもんこの人。弱いとことことん攻めてきやがって。ぬるめにお湯入れてくれてどうもありがとうね! 本当にっ!
「っ」
「ほっぺたすごい熱い」
今はたぶん、どこ触られてもおかしくなってしまう。けれどその、頬に触れられた低い彼の温度が、今はすごく気持ちがいい。
そっと擦り寄っていったらスルリと逃げられてしまったけど。代わりに浴槽の縁にほっぺたをつけた。
「それで? なに考えてたの」
忘れてたよ。そういえばそれのせいでわたし今こんな風になってたんだっけ。
「んー。ただ、慣れってこういうことなのかなーって」
「ん?」
さっき思っていたことももちろんそう。でも、必死に彼に応えようって思う中でも、最近よく考えるんだ。
「……ヒナタくんも、わたしとおんなじように気持ちよくなってるかな……って」
……あれ。わたし、また変なこと口走らなかった……?
「……なんてこと考えてんの」
で、ですよねー……。い、いや、ちょっと言い方を間違えたというか。わたしばっかりいつもいい気分にさせてもらっていると言いますか。……あれ。これもやっぱり一緒?
あわわと慌てふためいていると、先程逃げていった大好きな手が、再びほっぺたへと帰ってくる。
「どんな心配してんの」
どこか嬉しそうに。どこか楽しそうに。ふっと笑う彼は、やさしくわたしの頬を撫で、上げた髪の毛先を弄る。
「……だ、だって……」
「十分、気持ちよくさせてもらってるよ。オレも」
「えっ。うそ」
「嘘だったら何回もキスしてない」
「そ、そっか」
「ん。でも、まさかそんなこと考えてるなんてこと、思わなかったから……」
「……なんか、結構嬉しいね」と、照れ混じりにそうこぼした彼は、わたしの視線から逃げるように背を向けて立ち上がり。
「落ち着いたら、逆上せないうちに上がりなね」
と、扉の向こう側へ姿を消した。
(……そっか。嬉しい、のか)
変なことを口走ってしまったと思ったけど……言って、言えてよかったのかも知れない。まあ、ものすごーく恥ずかしいけど。
「あともう一つ」
「っ!? は、はいっ!」
しばらくぼけーっと頬の熱を冷ましていると、扉からそんな声がかかる。浴槽の縁から慌てて顔を上げると、本当に顔半分見える程度扉を開けて、じっとこちらを恨めしそうに見ている声の主と視線がぶつかった。……ヒナタくん?
「あおいだけじゃ、ないから」
「え?」
「裸見られて恥ずかしいの」
「え」
「じゃ」と聞こえたときにはもう、彼の姿は扉の向こう。けど、言い逃げした彼の耳は、とってもとっても赤かった。……ふっふっふっ。



