すべての花へそして君へ②

「それってどういうこと?」

「変態で警察さんのお世話になるから、どんどん先送りになるなーってこと」

「え!? お世話になる前提なの!?」

「オレ以外に発情したらそうなるだろうね」

「はっ、はつ……!?」

「したでしょ? ついさっき」


 それはわざとか。さっきそっぽを向いていたのもそういうことだったのか。
 浴衣はだけさせて。首筋と鎖骨見せるように斜め上向いて……。見せ所よくわかってるね!? モデルさんか何かですかあなたは!!


「それで? そろそろさっきまでの続き、してもいい?」


 立て続けの攻めに、返事すらできないまま、わたしは生唾を飲み込んだ。

【生唾を飲み込む】
 意味:目の前にあるものが欲しくてたまらなくなる。


(○×☆?△!?)


 発狂しそうになった。


「緊張してる?」

「し、しないわけない」

「まあそうだよね。オレもだし」

「ほ、ほんとかいな……」


 けれど意味を理解して叫び出す暇もなく、起き上がった彼に横にされながら、器用にホックまで外されてしまった。別に抵抗も拒否もするつもりはないのだけれど、急に解放された胸元が全くと言っていいほど落ち着かない。


「ちょっと、ガン見できないんだけど」

「し、しなくていい」

「やだ。無理。見たい」

「ぷっ、プールで思う存分したでしょ……?」

「水着と下着は違う」


 こいつ……代わりに水着見るって言ったくせに。結局下着も見たいんかい。
 もう訳がわからず。主に恥ずかしさで体も思うように動かせず。強張ったわたしの腕を、彼はふっと小さく笑みを浮かべながらやさしく取る。


「先に言っとくけど、最後まではしないからね」

「……? え?」

「うん、しない。絶対しない。……なに? 期待した?」

「え……っと。な、何か理由がお有りで……?」

「ゴム持ってきてないから」

「へ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。組み敷いてきている彼は、そんなわたしに居心地悪そうに少し恥ずかしそうに照れながら、視線をゆっくりと外す。


「……がっついてるって、思われたくないんだよ」


『――それからね、あっちゃん。十分わかってると思うけど、ヒナタはクールぶってるお子ちゃまだからね。甘やかし過ぎないように。あと、あっちゃんが可愛いことしたらすぐがっつくから。はじめっから犯されそうになったら急所蹴ってでも逃げるんだよ? じゃないとどんどんエスカレ――』


 ――ブチンッ。


 未だ流れていた映像をブツリと切り、黙々とその小さな地球儀みたいなものをいじった彼は、何事もなかったかのように再び、わたしを組み敷いてくる。


「がっついてると思われたくない」

「がっついてるよ」

「そう思われてたのもちょっとショックだけど……違うんだって」

「だいぶ説得力欠けたよ」

「ここに来たのは、それが目的じゃないんだって」