「さすがにそれはダメ」


 と、しようとしたけれど、さすがに危険を察知したのだろう。手が脇に入ってしまう前にヒラリとそれを躱したヒナタくんは、悪戯が過ぎるわたしの手を押さえつけるように組み敷いてくる。


「やっぱり起きてたー!」

「……何でそんな嬉しげなの」

「え? それはだって、嬉しいから?」


 お互いの顔は、暗闇に慣れたとは言えどやっぱりまだハッキリとは見えず。きっと、わたしの声だけで彼はそう判断したのだろう。


「……そ」


 わたしにもわかる。そのたった一音は、照れ混じりのどう反応したらいいかわからない……って言いたげだ。
 それがちょっと可愛くて、クスッと笑ったらピンポイントで鼻を抓まれたけど。もうだいぶ見えてたんですねあなた。


「ふがっ」

「いい子で寝なさい」

「ふが……?」

「え? うん寝るよ」

「……ふが?」

「いや、ほんとだって。結構本気で眠たい」


 そっか。なんだかちょっと残念だけど、眠たいなら仕方ない。
 寝るのお邪魔してごめんね。そんでもって、ヒナタくんよく何言ってるかわかるね。さすがだね。


「じゃあ、寝る前にもう一回」

「……なに。そんなに期待してたの」

「期待してなかったわけじゃない」

「……そういうこと、サラッとハッキリ言わないでくれない? 心臓もたないんだけど」

「折角だから、もったいないなって思って」

「……いや、だからさ」

「だから、もう一回ぎゅってして?」

「………………」

「……? ヒナタくん?」

「はあああ」

「え」


 それはそれは大きなため息を落とした彼は、なんだかんだでぎゅうと強く、腕の中に閉じ込めてくれる。
 ちょっぴり速い鼓動の音に、嬉しくなって身を擦り寄せれば、また腕の力が強くなる。この力強さが、すごくすごく愛しくてたまらない。


「ねえ、また何か隠してるでしょ?」

「さーて、何のことだか」

「あ。珍しい! ヒナタくん隠さないんだね!」

「隠したって、あおいにはバレるからね」

「……はは。そうだぞ? 見破っちゃうんだからな?」


 一瞬反応が遅れてしまったのは、きっと彼もわかってる。それでももう、何も言わないのは聞かないのは、ついさっき今言える限界を教えてくれたから。聞いたから。
 それにはお互い、小さく苦笑い。そしてそっと、どちらかともなくその距離をゼロにしようとしたところで。