それから、お互い何も話さず……というか、あまり覚えていなくて。ユズちゃんにはあんなこと言っておいて、自分はずっと後悔後悔。後悔ばっかりが付き纏った。
正直、本当にどうやって帰ってきたのかも、どうやって普通に戻れたのかも、それがいつだったのかも、このわたしの脳味噌から記憶がすっぽりないんだ。いつの間にか、ヒナタくんと会うようになって。普通に話せるようになって。笑えるようになって。……わかっていても、あんな顔のヒナタくんをもう見たくなくて。怖くて。そのことにだけは今まで、お互い一切触れることはなかった。
【あおいが言ったとおりだよ】
「あのときは、取り乱してごめん」
「ううん。わたしも、聞いちゃいけないこと聞いて」
「あおいは悪くないよ。……あおいは、一つも悪くない」
ただ痛かった、ただ苦しかったあのときの抱擁は、彼が溢れ出しそうなものを必死に堪えていたから。今は、そのときの謝罪も込めてそっと、抱きしめてくれていた。
「ヒナタくん。寒い……?」
「……ううん。あおいがあったかいから」
「ヒナタくん」
「ん……?」
「……“寒い”?」
「……うん」
けれど、その話を切り出したときから震えている彼の体は、まるで何かに怯えているようだ。
「わたしが怖い……? 何もしないよ。ヒナタくんが嫌がることは、絶対にしない」
「……うん。ありがと」
「ヒナタくん……」
それでもやっぱり、彼の震えは止まらなくて。ぎゅうと抱きついたり、背中を摩ったり、脇を擽ろうとしたら怒られたり、頭をわしゃわしゃーってしたりして、ようやく治まりはじめた頃。……彼はそっと、口を開いた。
「あおいに……ね、言わないといけないことが、あるんだ」
「……わたしに?」
彼がここまでなっている【言わないといけないこと】とは、一体何だろうか。そう思って身構えたけれど……。
「……ヒナタくん?」
「…………」
――ああ。そうか。彼は、わたしに言わなければいけないことを言うのがつらいんだ。苦しいんだ。……悲しくて、寂しいんだ。
「……うん。わかった! 教えてくれて、ありがとうね?」
「え。いや、でも……」
「いやいやいや。あのときの状況とか考えたら、ここまで教えてもらえただけで十分だから」
本当は、……本当は全部、教えて欲しい。そのつらい悩みを分けてくれないのがすごく悔しくてもどかしい。
けれど、それもヒナタくんのやさしさなんだろう。わたしまで同じ思いをしてしまわないように……とのことだろうから。
「いいんだ。本当に少しずつで。わたしが一枚一枚脱がしてあげるからっ」
「……なんか、変態発言だねそれ」
「だから、今日は一枚っ! それで満足することにする!」
「……ありがと」
あのときはただ、堪えるだけしかできなかったもの。
それは【隠していることがある】ということ。それを【わたしに言わなければいけない】ということ。それを言うのが【酷く、つらくて、悲しくて、寂しい】ということ。……それだけでも十分。収穫し過ぎたぐらいだよ。
「……ちゃんと、言うから待ってて」
「うんっ。全裸で待機しとくよ!」
「警察に突き出すよ」
「おお。それは勘弁」
少しでも早く、君がその苦しみから解放されるように。わたしにできることなら、何でもするからね。



