すべての花へそして君へ②


 それから、お互い何も話さず……というか、あまり覚えていなくて。ユズちゃんにはあんなこと言っておいて、自分はずっと後悔後悔。後悔ばっかりが付き纏った。
 正直、本当にどうやって帰ってきたのかも、どうやって普通に戻れたのかも、それがいつだったのかも、このわたしの脳味噌から記憶がすっぽりないんだ。いつの間にか、ヒナタくんと会うようになって。普通に話せるようになって。笑えるようになって。……わかっていても、あんな顔のヒナタくんをもう見たくなくて。怖くて。そのことにだけは今まで、お互い一切触れることはなかった。


【あおいが言ったとおりだよ】


「あのときは、取り乱してごめん」

「ううん。わたしも、聞いちゃいけないこと聞いて」

「あおいは悪くないよ。……あおいは、一つも悪くない」


 ただ痛かった、ただ苦しかったあのときの抱擁は、彼が溢れ出しそうなものを必死に堪えていたから。今は、そのときの謝罪も込めてそっと、抱きしめてくれていた。


「ヒナタくん。寒い……?」

「……ううん。あおいがあったかいから」

「ヒナタくん」

「ん……?」

「……“寒い”?」

「……うん」


 けれど、その話を切り出したときから震えている彼の体は、まるで何かに怯えているようだ。


「わたしが怖い……? 何もしないよ。ヒナタくんが嫌がることは、絶対にしない」

「……うん。ありがと」

「ヒナタくん……」


 それでもやっぱり、彼の震えは止まらなくて。ぎゅうと抱きついたり、背中を摩ったり、脇を擽ろうとしたら怒られたり、頭をわしゃわしゃーってしたりして、ようやく治まりはじめた頃。……彼はそっと、口を開いた。


「あおいに……ね、言わないといけないことが、あるんだ」

「……わたしに?」


 彼がここまでなっている【言わないといけないこと】とは、一体何だろうか。そう思って身構えたけれど……。


「……ヒナタくん?」

「…………」


 ――ああ。そうか。彼は、わたしに言わなければいけないことを言うのがつらいんだ。苦しいんだ。……悲しくて、寂しいんだ。


「……うん。わかった! 教えてくれて、ありがとうね?」

「え。いや、でも……」

「いやいやいや。あのときの状況とか考えたら、ここまで教えてもらえただけで十分だから」


 本当は、……本当は全部、教えて欲しい。そのつらい悩みを分けてくれないのがすごく悔しくてもどかしい。
 けれど、それもヒナタくんのやさしさなんだろう。わたしまで同じ思いをしてしまわないように……とのことだろうから。


「いいんだ。本当に少しずつで。わたしが一枚一枚脱がしてあげるからっ」

「……なんか、変態発言だねそれ」

「だから、今日は一枚っ! それで満足することにする!」

「……ありがと」


 あのときはただ、堪えるだけしかできなかったもの。
 それは【隠していることがある】ということ。それを【わたしに言わなければいけない】ということ。それを言うのが【酷く、つらくて、悲しくて、寂しい】ということ。……それだけでも十分。収穫し過ぎたぐらいだよ。


「……ちゃんと、言うから待ってて」

「うんっ。全裸で待機しとくよ!」

「警察に突き出すよ」

「おお。それは勘弁」


 少しでも早く、君がその苦しみから解放されるように。わたしにできることなら、何でもするからね。