「……それで? カップル限定って?」
「ん? ストローがハートでクロスしてるー」
「なんじゃそりゃ」
シャクシャクと氷を崩して、一口掬い上げると、真っ赤なそれはまるで苺のよう。そういえば、熱海でシズルさんが奢ってくれたかき氷、食べ損ねたな~なんてことを考えていると、横からその苺を掻っ攫われてしまった。
もうっ、いるならちゃんとあげるのに。と、むくれているところをフラッシュが焚かれた。
「はい。こっち向いてー」
「あ」
――パシャリ。また準備をするまもなくカメラで撮られてしまったけど、今すごく何とも言いがたいマヌケ顔だった気が……。まあいいか。それも記念だ。
「ヒナタくんも一緒に撮ろう?」
「えー。オレはいいよ」
「……撮ろう」
「……わかった。撮る撮る。撮ればいいんでしょ撮れば」
どうやら彼は、今でも写真を撮られるのがあまり得意ではないらしい。案の定「オレのところ切ろ」なんて言ってるし。やめて。そんな寂しいこと言わないでくださーい。
二人で食べ進め、だんだんとかき氷も少なくなってきた頃。ふと、陽がかなり傾いていることに気づく。
長く長く、伸びた影。そっと彼の手に、わたしのを重ねてみた。
「……何してんの」
「へへ」
それは、やさしい音だった。それでもって、ちょっと恨めしさも混ざっていて。でも照れているようでもあって。
「……そんなことしなくてもいいでしょ」
「だって、まだかき氷残ってるんだもん」
「だからって、そんな可愛いことしないでよ」
「だってしたくなったんだもんっ」
「だったら食べてからやってせめて」と、わたしからかき氷を奪った彼は、ストローに口をつけ一気にチューッと。残りのかき氷を飲んでしまった。
「あんま」
「わたしも!」
「残念でしたー」
「ええ!? 全部飲んだの!?」
それには答えず、紙カップを左手に持った彼は、先程影が重なった右手をそっと、こちらに差し出してきた。
「ん」
それが、どうしようもなく可愛くて可愛くて仕方なくて。それが嬉しくて、その手を追いかけたら勢いよく引かれてしまった。
「酷いっ!」
「さっきのお返し」
「え? 何のお返し?」
「可愛いことしたからそのお返し」
なんじゃそりゃ。
そう言ったら小さく鼻で笑って。「確かになんだそりゃだね」なんて。自分で言ったことなのに、それがよく考えたらおかしかったみたいで。ふって軽く噴き出しながらもう一度こちらに手を差し伸べてくれた。
「引っ込めない?」
「引っ込めない引っ込めない」
やさしかった。
わたしたちを照らす、暖かくて柔らかい夕陽のように。
「ひーなたくんっ」
「ん?」
重ねると、それを彼は絡めるようにぎゅっと握る。
「べー」
「めっちゃ真っ赤」
「ヒナタくんは?」
「まあ赤くなってるんじゃない」
「そこはべーってしてよ」
「しないよ。キャラじゃない」
「ヒナタくんのキャラ最近壊れてきてるから大丈夫だと思うよ」
「それ大丈夫じゃないよ」
あったかかった。声も、表情も、分け合う温度も。
ゆっくりゆっくり沈んでいく、きっと舌の色よりも真っ赤な太陽のように。
ああ。本当に、なんて……――――なんて愛おしいのだろう。



