「一通り回ったね。どうしよっか」
「まあちょうどいいかもね」
帰る頃にはきっと夕飯時になっているだろうと。折角もらったんだから、あの券使ってかき氷食べながら帰ろうと。そう言った彼に大賛成。「カップル限定でいいの?」って聞いたら「好きにすれば」って顔を背ける。これは照れていらっしゃるご様子。少しだけ元気がないように感じたけれど、今はもう元通りのヒナタくんだ。ウォータースライダーさすがです。
「それじゃあ着替えに行こっか」そう言いかけたとき、足が何かに引っかかって顔から水面にバッシャン……! 誰だ! 水の中でわたしの足を転かしたのは!
「あ、大変。水面にあおいの顔のパーツが浮かんでる」
「んなわけあるか~い!」
「うわっ、ちょっと!」
仕返しに投げたら、ヒナタくんは少し離れたところに沈んでいった。ふっふっふっ。わたしに勝とうなんて百年早いぜよ。
「……あれ」
おかしいな。ヒナタくんが上がってこない。そんなに遠くには投げてないし、ほんの数メートル飛んでいっただけで……。いや、誰もいないところ目掛けて投げたつもりだけど、もしかしたら潜ってる人に当たっちゃった可能性も……わっ。あ、有り得る……!
「ぅえっ!?」
慌てて彼の落ちたところへ足を進めようと、片足を浮かせたところを、何かに足を取られ……というよりは、水中から引っ張られ。ゴボゴボと音を立てながら引き摺り込まれる。
慌てて口から出ていった気泡を掻き集めていると、案の定わたしを引っ張った張本人が目の前に。もう、ビックリさせないでおくれよ。
そんな彼に怪訝の目を向けた。でも、視界がぼやけてハッキリとはわからないけど、向こうはなぜか穏やかな笑みを浮かべているような気がして。
次の瞬間には、唇があつかった。
「ぷはっ! ……はあ。はあ」
「オレに勝とうと思う方が百年早い」
「お、仰るとおりで……」
冷えた体を沸騰させるには十分。熱くて甘いキスだった。
「だいぶ前から限界だったんだよね。でも一応人の目気にしてあげたオレ偉い」
「だ、だからって水の中であんな……」
心臓が馬鹿みたいに動いてるのはきっと、息を止めていたからだ。
「ん? ……あんな?」
「な、なんでもないっ」
……そういうことにする。なんか悔しいからっ。
――――――…………
――――……
それからお互い着替えてかき氷を買いに行ったのだけれど、生憎ちょうどシズルさんは席を外していた。最後にもう一度話したかったけど残念。でもどうしてか、彼とはまたバッタリ道端とかで会いそうな気がするんだよね。神出鬼没だし。だからそんなには寂しくないというか、名残惜しくないというか。
「いいよもう。会うことなんてないし、名前すら出して欲しくない」
「それは……ヤキモチ?」
「も、ないことはない」
まあ彼はもう懲り懲りみたいだけど。一体何の話をしたのやら。



