すべての花へそして君へ②


「一通り回ったね。どうしよっか」

「まあちょうどいいかもね」


 帰る頃にはきっと夕飯時になっているだろうと。折角もらったんだから、あの券使ってかき氷食べながら帰ろうと。そう言った彼に大賛成。「カップル限定でいいの?」って聞いたら「好きにすれば」って顔を背ける。これは照れていらっしゃるご様子。少しだけ元気がないように感じたけれど、今はもう元通りのヒナタくんだ。ウォータースライダーさすがです。
「それじゃあ着替えに行こっか」そう言いかけたとき、足が何かに引っかかって顔から水面にバッシャン……! 誰だ! 水の中でわたしの足を転かしたのは!


「あ、大変。水面にあおいの顔のパーツが浮かんでる」

「んなわけあるか~い!」

「うわっ、ちょっと!」


 仕返しに投げたら、ヒナタくんは少し離れたところに沈んでいった。ふっふっふっ。わたしに勝とうなんて百年早いぜよ。


「……あれ」


 おかしいな。ヒナタくんが上がってこない。そんなに遠くには投げてないし、ほんの数メートル飛んでいっただけで……。いや、誰もいないところ目掛けて投げたつもりだけど、もしかしたら潜ってる人に当たっちゃった可能性も……わっ。あ、有り得る……!


「ぅえっ!?」


 慌てて彼の落ちたところへ足を進めようと、片足を浮かせたところを、何かに足を取られ……というよりは、水中から引っ張られ。ゴボゴボと音を立てながら引き摺り込まれる。
 慌てて口から出ていった気泡を掻き集めていると、案の定わたしを引っ張った張本人が目の前に。もう、ビックリさせないでおくれよ。
 そんな彼に怪訝の目を向けた。でも、視界がぼやけてハッキリとはわからないけど、向こうはなぜか穏やかな笑みを浮かべているような気がして。
 次の瞬間には、唇があつかった。


「ぷはっ! ……はあ。はあ」

「オレに勝とうと思う方が百年早い」

「お、仰るとおりで……」


 冷えた体を沸騰させるには十分。熱くて甘いキスだった。


「だいぶ前から限界だったんだよね。でも一応人の目気にしてあげたオレ偉い」

「だ、だからって水の中であんな……」


 心臓が馬鹿みたいに動いてるのはきっと、息を止めていたからだ。


「ん? ……あんな?」

「な、なんでもないっ」


 ……そういうことにする。なんか悔しいからっ。


 ――――――…………
 ――――……


 それからお互い着替えてかき氷を買いに行ったのだけれど、生憎ちょうどシズルさんは席を外していた。最後にもう一度話したかったけど残念。でもどうしてか、彼とはまたバッタリ道端とかで会いそうな気がするんだよね。神出鬼没だし。だからそんなには寂しくないというか、名残惜しくないというか。


「いいよもう。会うことなんてないし、名前すら出して欲しくない」

「それは……ヤキモチ?」

「も、ないことはない」


 まあ彼はもう懲り懲りみたいだけど。一体何の話をしたのやら。