嵐が去ってからは、二人して流れるプールに入ったり、ちょっと深めのプールに入ったり。普通に楽しんでいたのだけれど……。ここで、ちょっとした問題が起こった。
「待って待って待って。お願いだから落ち着いて。正気に戻って」
「え? わたしは落ち着いてるし正気だけど……?」
「落ち着いてたらこんなところ来るわけないでしょ。完全にはしゃいでるでしょ。はしゃぎすぎでしょ」
「えーっと、そんなことはないと思うのだけど……」
「あの~……」
問題があるとしたら、今必死になってわたしのシャツを掴んで引き留めようとしている君の方……なのだけど。ど、どうしたの。
「無理無理無理無理無理」
「え? でも嫌いなのって幽霊でしょ?」
「ジェットコースターもって言った」
「お、お客様……?」
目の前にあるのはウォータースライダーなのだけど。
「言ったじゃん。覚えてないの? 高さがあって速いものはダメなんだって。オレをこうしたのあんたでしょ」
「おう。ここはいっちょ責任を取って、苦手克服のお手伝いを」
「しなくていいから降りようよ……!」
「じゅ、順番なのですが……」
どうしよう。この子めっちゃ可愛いんだけど。こう……必死なんだけど、シャツはちょこっとしか持っていなくて、それをツンツン引っ張ってくるあたり……。
「わかっててやってんのかこんちきしょう……っ!」
「いいから降りようよ」
「大丈夫だヒナタくん。わたしがついているからね!」
「……いいから降りようよ」
「(いいからさっさと行けよバカップルが……)」
そして彼の腕を引っ張り、飛び込むようにウォータースライダーの中へダ~イブ! ――……しました。あは。
「しんっじらんない。ほんと信じらんないッ」
「ははっ。怒った?」
「ちょっと怒ってる」
「うわ! ごめんごめん! 拗ねないで?」
「……別に拗ねてない」
ヒャッホ~イ! と飛び込んだわたしに、今度はガッチリとしがみついていたヒナタくん。プールに落ちてからも、未だに彼はわたしに腕を回している。……ちょっとむくれながら。カタカタ震えながら。
「楽しくなかった? 怖かっただけ?」
「……そこまで怖くはなかったよ。隣でギャーギャー騒いでる人がいたから」
「あ。それわたしだ」
「でも別に楽しいとも思わなかった」
「むう……」
「そんな可愛い顔してもダメ」
「もう一回行かない?」
「行かない」
可愛く拒否されてしまったので仕方なく断念。だいぶ日も傾いてきたし、今から並び直すとなると滑り終わる頃には暗くなっていそうだ。……残念。



