ペンギンくんを持ち上げて眺めていると、向こう側からヒナタくんの視線が飛んでくる。合った視線にどうしたの? と首を傾げれば、彼は何も言わずにそっぽを向いてまた悔しそうにしていて……うむ。
「シズルさんシズルさん。今の手品わたしにもできますか?」
「ん? うん。コツを掴めば誰でも」
「だったら教えてください!」
「わかった。だったら葵ちゃん、俺と一緒にカップルかき氷を食べようか。はい割引券」
「へ?」
「もらわなくていい食べなくていい」
でもでも、ヒナタくん今が教えてもらえるチャンスだよ? ささ、わたしのことは気にせず二人でカップル限定かき氷でも食べておいでよ!
「オレが教えてあげるから!」
「あ、はいっ」
ちょっとおふざけしすぎて、ペチンと割引券を払われてしまった。負けず嫌いのヒナタくんは、どうやら今から種を明かせるよう頑張るようです。ちょっとご機嫌斜め。
「はい。落としたよ葵ちゃん」
「あ、ありがとうございます」
「もらわなくていいって……」
「どうせ裏にまた連絡先でも書いてあるんだから……」と、さすがにもういろいろ疲れたのか、ヒナタくんはもたれかかるように抱き締めてきた。
「……もう。シズルさん、あんまりヒナタくん弄りすぎて泣かせたら怒りますからね?」
「あはは。ごめんごめん葵ちゃん。それと弟くん?」
「別に泣いてねえし。弟じゃねえし。さっさとバイト戻れし……」
覇気のないヒナタくんに二人して小さく笑うと、またご機嫌を損ねてしまったのか今度はわたしに飛び火して軽くホールドを決められた。ぐ、ぐるじい……。
「まあまあ。葵ちゃんが俺のことをキラキラした目で見てるからって、ヤキモチ妬かない妬かない」
「もう、お願いですから仕事に戻ってくれません……?」
「し、シズルさん? さすがにそろそろ……で、でないとわたしの息の根が止まります」
「あ。そうだね。名残惜しいけどまたね? 葵ちゃん」
ヒナタくんに伝え忘れたことがあったのか、わたしを解放したあと少しだけ何かを話していたようだけど、彼はようやく本来の仕事へと戻っていった。……いつ会っても嵐のような人だな、シズルさん。



