しょぼ~んとしながら、お手洗いからそんなに離れていない彼らの元へ帰ると、なんだかとっても楽しげに取っ組み合いをしていた。
「いつの間にそんなに仲良くなったんですか?」
「あ。葵ちゃんおかえり~」
「ただいま帰りましたー。いやあ、ちょっと混んでて遅くなっちゃって。ヒナタくんのお守りありがとうございました」
「いえいえ~」
「にっ、んぐっ、……んんんっ!!」
何かを言おうとしたヒナタくんは、あっという間にシズルさんに押さえつけられ口を塞がれていた。おお、さすがシズルさん。腕に自信があるだけのことはありますねえ。
「あ、そうだ。はいこれ。葵ちゃんにプレゼント」
「え?」
「んっ!? んんんー……!!」
出されたグーの下に、受けるように両手を広げれば、なぜか降ってくるのはコンビニの三角おにぎり……の、ビニールゴミ。……どいつもこいつも。
やっぱりむしゃくしゃしてそれもビリッビリに破いてやったら、シズルさんも未だに口と動きを封じられているヒナタくんも目が点に。いやいや、さっきの紙パックに比べれば難易度低いよ? 中のストローまではさすがに難しかったんだからなっ。
「……見事にビリビリ……」
「だってシズルさんがゴミを押しつけてくるから」
「いやいや、それゴミじゃなくて本当にプレゼント」
「へ?」
――パチンッ。
彼が指を鳴らすと、破ったはずのビニールゴミが冷たくて真っ白なものに変わる。これは……雪?
「わあ! すごいすごいシズルさん!」
「喜んでもらえてよかったよ」
いつの間にか手の平の上に乗っていたのは、雪とペンギンのキーホルダー。
「それね、ここのプールのキャラクターなんだ。記念によかったら」
わーい。戴いちゃいますよー。返せって言われてももう返しませんからねー。……あ。ちょっと甘い匂いがする。
「早くかき氷の店戻ったらどうですか。ていうか店の氷こんなことに使っていいんですか」
「いいんじゃない? お客様を喜ばせるのが今の俺の仕事だし」
「……ていうかどうやって仕込んだんですか。全然気付かなかったんですけど」
「ふっふっふ。まだまだ修行が足りないねえ弟くん」
どうやら氷の出所については気付いていたらしいヒナタくんが、悔しそうにしながらシズルさんの帰りを促している。おお、ヒナタくんの目までも欺くとは。シズルさんの手品はかなりのもののようですな。



