決して【その話題】を忘れているわけではない。ただ、敢えて触れていないだけだ。
それは、わたしが決めたこと。知りたがりのわたしが、……決めたことだから。
(それに今は、思う存分楽しまないと!)
どんなことを考えながら、彼は今日の計画を立てたのだろう。きっと真面目な彼のことだ。一生懸命いろんなこと考えたんだろうなー。まあ、いきなり波のプールで潜ったのは計算外だろうけど。
(初日にして大満足だっ。さすがヒナタくん!)
わたしのこと、ほんとよくわかってるんだから。
けれど、考えることがなくなってしまうとやっぱりあのことを思い出してしまう……。あーダメだダメだ。今は誕生日プレゼント中なんだから。
「そ、そこの女の子……!」
「お、お一人ですか……?」
百面相をしていると、二人組の男の人に声をかけられる。おお、これはもしや、ナンパというヤツなのでは……ふむ。
葵はひとまず、バレないように臨戦態勢を取った▼
「ご、ごめんね? いきなり。その、可愛くてつい声を……」
「それでもし、迷惑でなかったらなんだけど……お、俺らと一緒にまわりませんか……?!」
葵は無害を察知――臨戦態勢を解いた▼
(この人たちある意味勇者だな。百面相のわたしの顔見て可愛いとか……)
それはさておき、正直に彼氏を今待っているところなのでとお断りさせてもらった。……ものすごく肩を落としていて、なんだか逆に申し訳ない気分。
「そこの可愛いお嬢さん? お一人ですか」
「いえ、連れを今待っていて……」
けれどそんな余韻に浸る間もなく、また一人ナンパ男がやってきてしまった……って、あれ?
「今日はあの麦稈帽子かぶってないんだね? 葵ちゃん」
どこかで聞いたことがある声に顔を上げれば、そこにはどこかで見たことがある顔が。
「シズルさん……!!」
「やっほー。ナンパ撃退お疲れ様ー」
「見てたんなら助けてくださいよ」
「俺いなくても大丈夫だったでしょ?」
「そうですけどー……」
けどまたどうしてこんなところに? 話を聞くところによると、熱海は父方の祖父母のところで。京都は母方の祖父母のところでバイトらしい。なんとピンポイントな。
「苦学生は大変なんだよー」
「おう。……お仕事ご苦労様です」
「え? ……はは。うん、ありがと」
ぺこりと頭を下げていると、なんだか一気に夏から冬になったような……まあそれは言い過ぎだけど、体感温度が急に下がった。原因はもちろん――――



