『――じゃあ、可愛くない下着を見てあげない代わりに、水着は目一杯見せてもらうね』


 いやいやヒナタくん。違うよね? そうやって嘘ついた理由も君知ってるよね? なのにどうしてそんなこと聞くんだい?


『え。嘘つく方が悪いんでしょ?』


 いやいや。君今までとてつもない嘘……というか隠し事していましたよね? それは無し? チャラ? もう清算し終わったのかな……?
 ま。そんなことを言ったところでご主人様に勝てるはずもなく。


「やっぱ似合ってるよねそれ。癪だけど」


 旅館近くのファミリープールへと来たわたしは、着いて早々彼氏様に水着姿をガン見されるという、偉い目に遭っております。ていうか本当にしてきたしこの人……。あれかな、真っ赤になった耳をいじって遊んだのが不味かったのかな。
 取り敢えず、そそくさとシャツを羽織った。


「あれ? もう終わり?」

「じゅ、十分見たでしょっ?」


『……え? そんなに水着が下着が見たいのかって?』


「……ま。いいけどね別に。今夜にでも見るし」

「……??!!」


『言ったじゃん。オレ、その下にしか興味ないって』


 あのあとにそんな余計なことを言ったもんだから、意識しないわけがない。敢えて掘り返したりはしないけど、そういうことはこんな真っ昼間から言わないでっ……!


「ほらほら。急がないとあっという間に時間がなくなるよ?」

「い、行くっ!」


 まあ、あんなこと言った彼ですが見せたくはないようで。上から下までシャツのボタンをしっかり留められてしまったのは、もはや言うまでもない。
 それから、恥ずかしがっていたのもあっという間。はしゃぎにはしゃぎまくってもうお昼前です。


「一応、何かあっちゃいけないと思って浮き輪持ってきたけどさ」

「ん? ……うんっ。ありがと?」

「浮き輪なしで率先して、波のプール最前列には行かないで」

「あはは。ごめんごめん」


 波の作り方は知っているんだけど実物を見るのは初めてでして。最前列にもかかわらず深くまで潜っていったから、そのあと大怒られ。相変わらず過保護だなあと思う反面、心配をかけてしまったのは事実なので素直に謝る。
 ソーリーソーリーヒゲ剃――


「それは謝ったとは言わない」

「ごめんちゃい」


「それもだけどね」と、肩を竦めながら彼は小さく笑う。どうやら許してもらえたみたいだ。
 そのあと、ヒナタくんは何か食べ物を買ってくると、「ちょっと待ってて」とお店の方へと歩いて行く。


(……ヒナタくん)


 去り際に撫でてくれた頭にそっと触れながら、わたしは彼の背中を、見えなくなるまでずっと目で追い続けた。