――――――…………
 ――――……


「――い! ……あおい? ……寝てる?」


 先程まで窓の外を流れる景色に目を奪われていたというのに。どうやら、目を瞑ってしまったときに、少しだけ夢の世界へと旅立っていたらしい。
 とんとんと肩を叩かれ覚醒。懐かしい夢を見たなあ。


「……寝不足?」

「うんっ。楽しみすぎて寝られなかった!」

「小学生か」

「だって、初めてづくしなんだもんっ」

「はいはい。着いたよ」

「えっ。嘘!?」


 慌てて電光掲示板を――……おう。目的地に着くやないかい。慌てて身支度。


「……ま。そういうオレもだけどね」

「ん? なにが?」

「危うく乗り過ごすところだったってこと」

「おお。さすがにこれで乗り過ごしたら大変だ」

「……ほんと、目が覚めてよかった」


 結構本気で危なかったらしく、背もたれに体を沈めながら大きく息を吐く彼は、「焦った……」と小さくこぼしている。


『――……今日モ、新幹線ヲゴ利用下サイマシテ、有リ難ウ御座イマシタ。間モナク――……』


「……それじゃ、行こっか」

「うんっ」


 今日は8月30日。わたしたちは今、桜のある北区でもなく、実家の朝日向や花咲でもなく。遠いところへと来ていた。
 ――そう。これが、彼が用意してくれたわたしへの誕生日プレゼントである。


「いざ行かん!」

「調子乗ってると怪我するよ」

「調子に乗ってるんじゃないよ? すっごい楽しみなんだよ!」

「はいはい。わかったのでちょっと静かにしてくださーい」

「はーい。ごめんちゃいっ」


 ――――さあ。京都へ行こうっ。