再び口をつけたご飯は、やっぱりちょっと冷めてしまっていた。
「……はあ?」
けれど、決してそのことに関してオレは怒っているわけじゃない。
「い、いや、だからね? こうやって、ヒナタくんの時間をもらえてることが何よりの幸せであって……」
だから、そういった意味での『ヒナタくんが欲しい』というわけだったらしく、宿題の答えとかこいつ全然わかってなかったらしい。……さっきまでのオレの動揺と喜びを返せ。
「……あ。し、強いて言うなら、時々よくわからなくなる【ヒナタくんの取扱説明書】……が、あったら結構嬉し――」
「オレの方が欲しい」
「えっ?」
「あおいの取扱説明書」
「……なんかすみません」
絶対こいつの需要の方が高い。オレ以外にも、求めている奴は多いと思う。主に下手くそな日本語に関して。
「そもそも、オレの取扱説明書があったとしてどうするの」
「ヒナタくんの心が読みたい……」
「は? オレの心読んだって、いっつも考えてるのあんたのことくらいだよ」
「え?」
「どんなこと言ったら、また顔真っ赤にするんだろうとか、また一人でどっか行ってるなーとか。いつでもずっと、あんたでいっぱい」
「な、なんで、最近は素直なの……?」
「え? 嫌なの?」
「まだ、素直のヒナタくんに対応してません」
電化製品ですかあなた▼
「……ねえ、ヒナタくん」
「ん?」
説明書に関しては、そのあと自力で作成してもらうということで話が落ち着き、彼女お手製の料理を堪能していたときだった。
珍しく控えめにオレの名前を呼ぶ彼女の方へ、半分になった“太陽”から顔を上げると、
「……いつか、一緒に見に行きたいな」
同じように半分になった“向日葵”に視線を落とす彼女が、遠慮がちにそうこぼす。
「――もちろん」
彼女は……覚えているだろうか。言えばきっと「もちろん覚えてるよ」と笑顔で返してくれるんだろう。
オレが異様に話しかけていた頃を。守ろうと必死になって、オレの存在を消していた頃を。
【そんなに行きたいとこがあるなら、オレがいつでも連れて行ってあげるよ。一緒に行こ?】
新歓のプランを考えていたときに言った、決して冗談なんかじゃない、オレの希望を。
「それで? ご希望はある?」
「ううん。ヒナタくんにお任せする」
「わかった。それじゃあ百均で造花買っとくわ」
「はは。うん! それじゃあ花瓶用意しとくねっ」
そうやって切り返してくるし。んなわけないでしょ、バカ。
「ふふっ」
「……なに」
「ううん? ……幸せだなーって思って」
「……そ」
気付かれてるだろうけど、もう今更だ。
「早く食べないと冷めるよ」
「うーん。そうなんだけど、なんだか目の前に見えるお耳の方が今はとっても真っ赤で美味しそうに見えてね?」
「っ、い、いいからさっさと食べなよ。駅まで送るからっ」
「はーい。……ははっ」
きっと、もらったトマト……くらいには。さすがに、さっきのこいつの真っ赤に熟れた顔には負けるだろうけ――――



