彼女は驚きで目を瞠ったまま、何かを訴えかけるようにオムライスとオレを交互に見てくる。けれど、その視線から言葉から逃げるように。


「誕生日、何欲しい?」


 さっさといただきますをして、大きくオムライスを頬張って全く関係のない話題を振る。


「……え? た、誕生日プレゼント……?」

「んま。ねえ、これ隠し味に何か入れてるの」

「……味噌を少々」

「ふ~ん」


「ってこら。話振っといてそうやって恥ずかしいからって話逸らさないの。美味しそうに食べてくれるのはとっても嬉しいけども」と、怒られてしまった。
 まあそうだよね。振る話題も話題だけどオレにとってもこいつにとっても大事なことだし。ただ、こういうのって相手には内緒で準備したりとかするんだろうけど……。


「何がいいかわかんなさすぎて、もう本人に聞こうと思って」

「悩んでくれたんだ」

「そりゃね」


 嬉しそうに浮かべる満面の笑みから逃げるように、カプッと大きなトマトに齧り付く。……ん。相変わらずミズカさんが作る野菜は旨い。
 ……まあ、逃げたところで眩しすぎる笑顔から、逃げ切れるはずもないけど。


「だから、さ……」

「ヒナタくんがくれるものなら何でも嬉しいよ」

「……だからさ、そうなるのが嫌なんだって」


 ちゃんと、彼女が欲しいものをあげたい。でも彼女は、オレがくれるものなら何でも嬉しいなんてことを言ってくれる。正直プレゼントには困るけれど。


「……じゃあ下着とかでもいいわけ」

「うんっ。もちろん?」


 ふざけなんなよ。こっちは真剣に悩んでるのに。
 それでも彼女は、ふふっとただ楽しそうに笑っていた。


「……ちょっと。何想像してニヤニヤしてるの」

「下着売り場にいるヒナタくん」

「いや冗談だし。行かないから。買うとしても通販」

「えー。それはちょっと楽しくない」


 楽しさは要求しないで。しかもオレに。
「わ、わたしも特別『これが欲しい!』っていうものはないからな……」とぼそぼそ言う彼女に、むすっとしながら何かないのかと追求する。


「……強いて言うなら」

「強いて言うなら……?」

「ヒナタくん」

「ん? なに」

「だから、【ヒナタくん】」

「……は」

「いや、だから【ヒナタく――――ガタガタガタッ! っ、ぅえっ?!」


 椅子から落ちた▼


「ひ、ヒナタくん大丈ぶ」

「大丈夫なわけないでしょ!?」

「うわお!」


 心配して駆け寄ってくれたものの、そうやって掴み掛かる。
 大丈夫なわけない。大丈夫なわけがないでしょ。


「ふざけんな」

「ええ!? な、なぜ怒っているのでしょう……」


 ついさっきだぞ、そんな話したの。こちとらびっくりして心臓止まるかと思ったわ。


「こっちは真面目に聞いてんのにい……」

「ひ、ヒナタくん……?」

「ねえ」

「ん……?」

「キス、していい?」

「……ご飯が冷め」


 返事は待たず、そっと押しつけるように可愛いこと言いやがった唇を塞ぐ。
 せっかく作ってくれた彼女のご飯が冷める前に離れなければいけないのがすごくもどかしい。このまま――……そんなことさえ思ってしまうくらいだ。たく……。宿題の答えわかってんなら聞いてくんなっつの。
 名残惜しいけれど、今日はここまでにしといてあげる。次は……覚悟しとけ、バカ。