すべての花へそして君へ②


 そんな、昨日と今日の祭りの雑な説明を受けながら、丘の方に向かって歩いて行く。さすがに、賑やかな祭りの後があっただけで、今はもう静まりかえっていた。


「……ねえあおい」

「ん?」


 先を歩いていた彼女が、オレの声に振り返りながらピタリと止まる。そんな彼女の手をそっと取って。指を絡めた。


「……もうちょっとさ、ゆっくり教えてよ」


 楽しかったんでしょ? みんなとお祭り回るの。どうだったか教えて? いい子でお留守番してたオレのご褒美に――「ダメ! 早く行かないと」……ええー……。


「そもそもさ、なんでそんな急いでるの」

「着いたらわかるからっ」

「うわっ、ちょ!」


 何をそんなに焦っているのか。絡んだ指に何とも思っていないのか。……っていうか絡んでるせいで、そんな強く引っ張られるとちょっと痛いんだけど。繋ぎ方マズった。


「あおい。あおい待って」


 いや、離すつもりないから。ただ痛いだけだから。繋ぎ方変えたいだけだから。……あなたは痛くないんですかね。強く握ってくるあたりはそうでしょうけど。……っ、握力なんぼだよっ。


「着いてないけど着いたあー!」


 やっぱり、いろんなこと覚えすぎて日本語下手くそだなこの人。


(着いたって言っても……)


 何もない。道をずっとのぼって(結構な駆け足で)きた丘の上なだけ。……で?


「着いてないってことはまだ行くの」

「ヒナタくんも探して!」

「は?」


 気付いたら手離れてるし。……さっきは、あれだけ握ってたくせに。


「……っ」


 さあーっと吹く夜風が、手の平に残った熱を攫っていく前にグッと強く、閉じ込める。


「あった! あったよヒナタくん!!」


 そうしてすぐ。少し離れたところからオレの名前を呼ぶ声。
 ……けれど、どうしてかそれに反応できなかった。手の平の熱が、どんどん消えてなくなってしまうのを必死に止めようと、ただ強く握り締めただけ。


「……ヒナタ、くん?」


「大丈夫? 手、痛かった?」と、聞いてくる辺りちょっとは自覚あったのかって思ったけど。


「……あおい」

「ん……?」


 駆け寄ってきてくれた彼女は、そっとオレの手を包み込むように握り、そして心配そうにこちらを見上げてくる。そんな顔をさせてしまうほど、寂しげな声……だっただろうか。


「……ちゃんと持ってて。オレの手」

「ふふ。……喜んで」


 ……うん。ほんの一瞬、彼女の顔がほっとしたように緩むくらいには、きっと、そんな声だったんだろう。