そんな、昨日と今日の祭りの雑な説明を受けながら、丘の方に向かって歩いて行く。さすがに、賑やかな祭りの後があっただけで、今はもう静まりかえっていた。
「……ねえあおい」
「ん?」
先を歩いていた彼女が、オレの声に振り返りながらピタリと止まる。そんな彼女の手をそっと取って。指を絡めた。
「……もうちょっとさ、ゆっくり教えてよ」
楽しかったんでしょ? みんなとお祭り回るの。どうだったか教えて? いい子でお留守番してたオレのご褒美に――「ダメ! 早く行かないと」……ええー……。
「そもそもさ、なんでそんな急いでるの」
「着いたらわかるからっ」
「うわっ、ちょ!」
何をそんなに焦っているのか。絡んだ指に何とも思っていないのか。……っていうか絡んでるせいで、そんな強く引っ張られるとちょっと痛いんだけど。繋ぎ方マズった。
「あおい。あおい待って」
いや、離すつもりないから。ただ痛いだけだから。繋ぎ方変えたいだけだから。……あなたは痛くないんですかね。強く握ってくるあたりはそうでしょうけど。……っ、握力なんぼだよっ。
「着いてないけど着いたあー!」
やっぱり、いろんなこと覚えすぎて日本語下手くそだなこの人。
(着いたって言っても……)
何もない。道をずっとのぼって(結構な駆け足で)きた丘の上なだけ。……で?
「着いてないってことはまだ行くの」
「ヒナタくんも探して!」
「は?」
気付いたら手離れてるし。……さっきは、あれだけ握ってたくせに。
「……っ」
さあーっと吹く夜風が、手の平に残った熱を攫っていく前にグッと強く、閉じ込める。
「あった! あったよヒナタくん!!」
そうしてすぐ。少し離れたところからオレの名前を呼ぶ声。
……けれど、どうしてかそれに反応できなかった。手の平の熱が、どんどん消えてなくなってしまうのを必死に止めようと、ただ強く握り締めただけ。
「……ヒナタ、くん?」
「大丈夫? 手、痛かった?」と、聞いてくる辺りちょっとは自覚あったのかって思ったけど。
「……あおい」
「ん……?」
駆け寄ってきてくれた彼女は、そっとオレの手を包み込むように握り、そして心配そうにこちらを見上げてくる。そんな顔をさせてしまうほど、寂しげな声……だっただろうか。
「……ちゃんと持ってて。オレの手」
「ふふ。……喜んで」
……うん。ほんの一瞬、彼女の顔がほっとしたように緩むくらいには、きっと、そんな声だったんだろう。



