「それでねえ。あっちゃんとツバサったら抱き合ってたのよ~」

「なんとっ! それは彼氏に報告へ行かねばなりませんな!」

「だーかーら! 介抱してあげてたんだってば!」


「「そうやって否定してくると余計怪しい……」」とか二人に言われるし。ダメだって。あの子、そういうこと本気で受け取っちゃうんだから。
 あれから旅館へと帰ってきたわたしたちは、お風呂に入って寝る前のテンションで恋バナ中。……だったにもかかわらずなぜかついさっきの話で盛り上がっていた。そろそろ話題変えようよー。


「「「……ん?」」」


 その時、わたしたちの部屋に小さくノックの音が響いた。時間は……もう0時をまわっている。誰だろう。


「え。菊ちゃん。どうしたの」

「夜這い」


 おい。堂々と何言ってんだこの人。あなた仮にも教師でしょ? 保護者でしょ? カエデさん頑張れ……っ。


「つうのはまあ半分本気だけど」

「本気なんかい……」

「……もう寝る? 寝るなら別にいいけど、ちょっと歩かねえ?」

「え? えっと、それは……」


 まさかのこんな時間に夜のデートのお誘いとは!
 行っておいで行っておいでキサちゃん! お昼も堂々とデートしてただろうけど。ついさっきもデートしてたけど! キク先生はまだ物足りなんだって!


「……あっちゃんとユズ。言いたいことが顔に書いてあるわよ」

「キサちゃん行ってらっしゃーい!」

「朝まで帰ってこなくていいよ~」

「さすがに帰ってくるわよ!!」


 夜遅いので小声でそう叫んだキサちゃんは、静かに部屋を出て行った。


「ほんとに行っちゃったね」

「なんだかあたしたちまでドキドキしちゃったね!」


「当初計画していた恋バナはなくなりそうだけど……これはこれでイイね!」なんて言っているユズちゃんはMAXテンション。こりゃ全然眠そうにありませんな。


(まあ、寝ないなら寝ないでいいんです。今日こそはきちんとした理由がつけられるので……)


 とかいって、別に彼から逃げているわけではないけれど。今、キサちゃんが出ていったことによって湧き上がってくる好奇心や興味が、自分に返ってくると思うと……。


「あおいちゃんにもお誘いが来るかな!? ていうか来るよね! ひなくん欲求不満だもん!」


 それもそれでどうかとも思うけど。それを否定できないあたり、自分の中のヒナタくん像もおかしなことになってる気がしなくもない。
 こんな風に、誘われたはいいけどそのあとのことを考えると……わたしには少し、難易度が高い。


(それならもう、いっそのことユズちゃんと一晩中いろんなお話ししてた方が……)


 メンタル的にも、体的にも一番安全なのではないか……? その、寝相的な意味で。