……ただ、やっぱり【これから】という単語に、わたしはどうしても引っ掛かるものがあって。


「……葵?」


 ぼうっとしてたせいで、彼に買ってもらった綿飴に顔を突っ込みそうになった。
 ……あ、危ねえ。危うく顔中ベタベタになるところだったよ。ありがとうツバサくん。


「じゃなくて」

「ん?」

「何ぼうっとしてたんだよ。さっきまで楽しんでたくせに」


 ……ね。ほんとついさっきまではそうだったんだ。でもやっぱりどうしてもその単語一つで引っ掛かって。悩んじゃって。


「……それは、俺が聞いてやれること?」

「え?」

「言いたいこと。……あったら言えって前から言ってるのに全然お前言わねえから」

「……面目ねえ」


 まあ、言いたくても言えなかったんだけどね。それはもうそれで。過去には一つ、線を引くことにして。


「これから、どうするかな~って思って」

「日向と結婚するんじゃねえの」

「……!? そ、それは一先ず置いておいて」

「それって置いておいていいのかよ」

「そ。そりゃ、願望がない、とは言わないけど……」

「よく言えました」


「えらいえらい」……って。完全に子ども扱いじゃないか。


「……ツバサくんは?」

「え?」


 彼は、悩んだことはないのだろうか。彼は彼で、今までいろんなことに悩んでいただろうけど。こうなって、変わったこととか、昔から決めてたこととか……。


「俺は……そうだな」


 ――逆に聞いてみるけど、どうしたらいいと思う?


「ぅえっ!?」

「イコール、まだ全然ってこと」

「そ、それでいいの? だってもうすぐ高校卒業……」

「つってもまだ半年あるし」


 カナデくんも、昨日似たようなこと言ってたけど、なんだかんだでしたいと思うことがあるみたいだったし。


(……でも、このツバサくんの様子を見る限りでは……)

「ちょっと綿飴頂戴」


 ……おいそこのイケメン。暢気に綿飴なんか食ってる場合ではないのでは?


「あんま。ちょっとでいいわこれ」

「こらこら。君はそれでいいのかい」

「ん? まあ、悩んでんのはお前だけじゃねえって話だよ」

「え?」


 小さく笑った彼は、すっと視線を下げて。そのまま流れるように、空の星を……月を、見上げた。


「お前だけじゃねえよ。その時その時を、必死に生きて、足掻いてたのは」

「……ツバサくん」


 彼が今、何を思い描いているかなんて、言うまでもないこと。