『だから、襲われないように気をつけてね~!』……なんて。そう思うなら残っておいてもらえないですかね。あなたヒーローでしょ? しかもレッドでしょ?
 ……そんなこと言い残していったアカネくんの、逃げ足の速いこと速いこと。


「というわけです」

「……それを素直に言う辺りお前らしいけどな」

「どもども」


 話している最中から、ものすご~く気まずそうに恥ずかしそうにしていたツバサくん。今はもう吹っ切れたのか、はあと大きなため息をついている。


「……だって、そりゃそうだろ」

「ん?」

「こういうこと。……もうできねえんだから」


 次に漏れた息が少しだけ苦しそうで、切なく聞こえたのは、きっと聞き間違いなどではないだろう。……でもね、ツバサくん。


「みんなね、ツバサくんみたいに貴重感を感じてすらいなかったよ」

「……は?」


 ――――――…………
 ――――……


 あのあと、みんながどんなふうだったのかを彼に教えてあげたら一言、『もったいね』って。
 いや、わたしは全然楽しかったよ? それに、レンくんに昨日も言われたけど、わたしの気持ちを尊重してくれてるんだ……って。
 でも、目の前の彼はそのあと続けてこう言った。『俺はまだまだ子どもなので』と。クシャって子どもっぽく笑いながら。


 ガチャッ。


「手を上げろ。さもないとこの可愛いクマさんを撃つぞ」

「いや葵。なんでそんな様になってんだよ……」


「しかもそれじゃあ射的は落ちないから」って言われたけど、わたし、どうしてもこの可愛いクマさんが欲しいんです。どうしたらいいでしょうか。そこのかっこいいお兄さん。


「はあ。……ちょっと貸してみろ」

「え。ヤダ。わたしがやりたい」

「んじゃあ、そのかっこよすぎる構え何とかしろ」

「えー。まずは何事も形からって言うじゃん」

「じゃないとクマ取れねえぞ」

「えー……」


 渋るわたしに、とうとう痺れを切らしたツバサくんが上からなぜか乗っかってきた。かなりの身長差+構えていなかったせいで、わたしの体はあっけなく机の上でペシャンコに。


「ん。そのまま構えて」

「え?」

「腕突き出して。机から乗り出す感じで」

「えっ、……こ、こう?」


 なんだかもう、全然容赦がなかった。頭を押さえつけられて、そのままガシッて肩掴まれて腰掴まれて。完全に腕の中にいるはずなのに、どうしてこう……ドキドキというよりも恐怖で小刻みに震えてしまうのか。


「……よし。ここで撃って」

「え?」

「だから早く撃てって」

「は、はいっ」