泣きそうなだけで泣いてはいない。ていうか、アカネ本気で絞めにかかって……ちょっと痛えし!


「だってちかクン強いんだもんっ。弱ってるときに本気でかからないとおれ勝てなーい」

「おれに勝ってどうしようってんだよ!」

「ん? 順位を上げる」

「つ、強さランキング的な……?」

「そうそうっ」


 なんだかマジで楽しそうですねあなた。本気でランキング変えに来てるんなら、オレもやり返さないと引っ繰り返され――――


『……私の、我が儘なんや』

「……は? ――むぐっ」

『ん? アオイさん、今チカの声せえへんかったか?』

「いいえ? チカくんによく似た猫さんなら近くにいますけど」


「当の本人はスマホだけ置いてめそめそ泣きに席を外してしまいましたので」……と、アオイはスピーカーにしたそれに話しかける。


「「……黙ってないと、本気で黙らせるからね」」


 怖え。お前ら二人にそんなこと言われたら、マジで泣きそうなんだけどっ。
 っていうかアカネさんっ。口と一緒に何でちょっと鼻も抓んでるのっ。ぐるじいんだけど……。


「……それで? 我が儘とは?」

『……私が、あの子といっぱい一緒にいたいっていう我が儘や』


 両親からあの子を預かって。全然会わんまま、もう会われんなって。いっつもいっつも泣いとって。でも、無くなった隙間は、埋めてあげられんかった。
 私じゃあ、あの子の親の代わりには、なれんかった。


『……今までな。茶道教えとったんは、私が離れていって欲しくなかったからや』


 そうやってあの子を縛って。好きんなってくれたら、これからもずっと一緒におられるなあ思うて。……そしたら、私と本当の家族になってくれるか思うて。


「……フジカさん」

『アオイさん。あんたを責めてるんやないからな』

「はい。……ありがとうございます」

『……あの子はどう思うとるんかわからん』


 それでもふと、やっぱり寂しそうな顔を、背中を見るたびに。……ああ。やっぱり私じゃあかんかったんやなって。なれんかったんやなって。
 ……なれるわけ、ないのになあ。


『……せやからもう、あの子をこんな我が儘で縛りたくないんよ。私は』


 私ももう年や。高千穂はあとのもんに任せて、あの子といっぱい話して、美味しいご飯も食べて。いっぱい笑いたいんよ。


『あの子が好きなことを好きなようにしたらええ。……その中に』


 私がちょっとでもおったら、嬉しくて泣くわ。


「縛られてたなんて、……思ったことねえよ」

『……!』

「寧ろオレが、……必死にしがみついてたんだっつの」

『……なんねえ。ほんま、よう似た猫がおるんやなあ』


 もう、一人になんてなりたくなかったから。オレにとっての家族は、もうババアだけだから。


「オレがマジで好きでも、茶道がやりたくてやりたくてしょうがなくても、……やらせてくんねえの?」

『……そがあにやりたいんね』

「ん。ババアに教えてもらった大切なことの、一つだからな」