「んじゃ、オレはたい焼き食えたから帰るわ」
「あっ、ちょっと……」
手を上げ振り向きもしないまま、彼は旅館の方へと歩いて行ってしまった。……聞いたら不味いこと、聞いたのかな。
「そうじゃないよ」
「え?」
最後の一口をパクッと食べて。アキラくんは、こつんと頭をやさしく叩く。
「もし嫌なら、チカはきっと何も話さない」
「……うん」
「話したってことは、葵に言えないわけじゃない。聞いちゃいけないことを聞いたわけでもない」
「それに葵は、はじめに一言断っただろ?」と、やさしい笑顔を携えて、彼はそっとわたしに教えてくれた。
「チカは、剥奪されたんだ」
「……えっ」
「高千穂の跡は継がせないって。ほぼ強制で」
「……フジカさんが、そうしたの……?」
「あの人以外に、そんなことできる人はいないだろ?」
それは……何? みんな知ってるの? アキラくんだけ? ヒナタくんは?
「……なんでわたしは、それを知らないの」
「別に、葵に言いたくないわけじゃないと思うよ」
「でも、そんなこと知ってたら聞かなかったよ」
いつ知ったんだろうとか。そんなことよりも、そういう無神経なこと聞いてしまった自分を今、めちゃくちゃ怒鳴り散らしたい。
「別に、気を回したわけじゃない」
「え」
「たい焼き。そう言ってただろ?」
「……そりゃ、たい焼きは……」
「ただ、本当にタイミング合わなかっただけ」
「……でも今は」
「今は、……多分」
――――俺が、いたから。
「えっ? ……どういうことか、聞いても大丈夫?」
「全然へーき」
彼が知ってるのは、たまたまチカくんと帰りが一緒になったときに、フジカさんから電話が掛かってきたらしくて……。
「それで、電話に向かって怒りながら泣いてた」
「え」
「以上」
「ぅえっ!?」
本当に? 本当にそれだけなの? ていうか、それが本当なら、チカくんはそうなったことを言いたくなかったんじゃないの? 聞いちゃ不味かったんじゃないの? もっと……こう、なんか……ないの!?
「何もない」
「そうですか……」



