すべての花へそして君へ②


「んじゃ、オレはたい焼き食えたから帰るわ」

「あっ、ちょっと……」


 手を上げ振り向きもしないまま、彼は旅館の方へと歩いて行ってしまった。……聞いたら不味いこと、聞いたのかな。


「そうじゃないよ」

「え?」


 最後の一口をパクッと食べて。アキラくんは、こつんと頭をやさしく叩く。


「もし嫌なら、チカはきっと何も話さない」

「……うん」

「話したってことは、葵に言えないわけじゃない。聞いちゃいけないことを聞いたわけでもない」


「それに葵は、はじめに一言断っただろ?」と、やさしい笑顔を携えて、彼はそっとわたしに教えてくれた。


「チカは、剥奪されたんだ」

「……えっ」

「高千穂の跡は継がせないって。ほぼ強制で」

「……フジカさんが、そうしたの……?」

「あの人以外に、そんなことできる人はいないだろ?」


 それは……何? みんな知ってるの? アキラくんだけ? ヒナタくんは?


「……なんでわたしは、それを知らないの」

「別に、葵に言いたくないわけじゃないと思うよ」

「でも、そんなこと知ってたら聞かなかったよ」


 いつ知ったんだろうとか。そんなことよりも、そういう無神経なこと聞いてしまった自分を今、めちゃくちゃ怒鳴り散らしたい。


「別に、気を回したわけじゃない」

「え」

「たい焼き。そう言ってただろ?」

「……そりゃ、たい焼きは……」

「ただ、本当にタイミング合わなかっただけ」

「……でも今は」

「今は、……多分」


 ――――俺が、いたから。


「えっ? ……どういうことか、聞いても大丈夫?」

「全然へーき」


 彼が知ってるのは、たまたまチカくんと帰りが一緒になったときに、フジカさんから電話が掛かってきたらしくて……。


「それで、電話に向かって怒りながら泣いてた」

「え」

「以上」

「ぅえっ!?」


 本当に? 本当にそれだけなの? ていうか、それが本当なら、チカくんはそうなったことを言いたくなかったんじゃないの? 聞いちゃ不味かったんじゃないの? もっと……こう、なんか……ないの!?


「何もない」

「そうですか……」