「おじさーん! たい焼き一個! 粒あんで!」
(あ。猫さんがお魚を食べている……)
わたしの視線に気が付いたのか、その猫さんと目が合った。ニカッと笑ったあと、お店の人に何かを言って、こちらに駆けてくる。
「お魚咥えたチカくん~」
「オレはどっかの家の猫じゃねえ」
「あれはどら猫だよ~」
「わかってる。メロディーの話だって」
そして、「ん」と渡されたのは、焼き立てのたい焼き。
「え? ……くれるの?」
「冷たいものじゃなかったら食えるだろ?」
そうだった。腹痛で海入れないことになってたんだっけ。いや、間違ってはいないけどね。
「中なに?」
「お前のはクリーム」
「そっか」
「ん? あんこの方がいい?」
「ううん。そうじゃないんだけど……」
一瞬首を傾げたチカくんは、何かに気が付いたのかおもむろに自分のたい焼きを半分こにする。
「こういうことだろ」
「……ははっ。うん。大正解!」
わたしも、もらったそれを半分こにして、チカくんのと交換。
「いいな、たい焼き……」
「アキラくんはりんごアメで我慢しなさい」
「……アキ。どんまい」
そして、パクパクパクと何口か食べて、ふと気付いた。
「チカくん。たい焼き食べるの、ひと口目しっぽ派? 頭派?」
「俺は頭」
「……え。アキラくんもうりんごアメ食べたの!?」
「だって葵が小っさいのにしろって……」
「物欲しそうにしてもあげないからね」
「葵のケチっ」と。結構本気で食べたかったらしいアキラくんは、りんごアメ代を出して満足した、旅館の方へと帰って行っているカエデさんのあとを追う。……うん。彼がしっかり言ってくれるだろう。皇家のお財布は彼が握ってるみたいだからな。
きっと、シランさんが決めたんだろうなあ。あの二人に財布持たせたら、ほんとどうなることかわからないから。
「アキ行っちゃったな」
「そうだね」
「先生としては、もう甘いもん食べさせたくないんじゃねえの?」
「そりゃ、できることなら控えた方がいいけど……」
彼の場合は、全く食べないとなると暴飲暴食しかねないからな。そんなことをしたとき、わたしがいればそりゃ体張ってでも止めるけど……。
「ま。旅行の時くらいはいいんじゃね?」
「君も随分、崇めてる人に甘いね」
「まあ、恩人ですからね」
「そーかいそーかい」
ま、今回は無礼講にしてあげよう。カエデさんが遠くの方からこっちを見てる気もするし。
わたしは、両手で大きな丸を作ってあげた。



