それに不安を覚え顔を上げると、彼女はぼうっと何かを求めるような瞳で来た道を眺めている。
「……あおい」
湧き上がってくるのは、単なる嫉妬か。
「……どこ見てんだよ」
顔のアウトラインに手を添え、半ば無理矢理こちらを向かせ唇を奪う。
「ちょっ、ひな、んっ」
今はオレだけに集中して――と。
押し返そうとする手を取って縫い付けて。思考をも蕩けさせるようなキスを……繋ぎ止めるキスを、何度も何度も彼女に与えていく。
「……ひ、なたくん。もう……」
「やだ。……まだ、足んない」
「ん、っふ……」
これは、オレの一方的な我が儘だ。まだこいつと離れたくないっていう独占欲。嫉妬が絡みついた、厄介なもの。……そういうことに、しておこう。
「……!? ちょ、ヒナタくん何してっ」
片脚を持ち上げ、太もも内側の柔らかいところへ顔を寄せようとすると、彼女は軽く悲鳴のようなものをあげる。
「大きな声出したら誰か来るよ」
「ひっ、ヒナタくんがやめればいいんだよ……」
「やめるわけないでしょ」
彼女の制止も聞かず、そこへきつく吸い付くようなキスを落とす。必死に声を抑えようとする彼女に、調子に乗って数枚の赤い花弁を散らせれば……少し満足だ。
「か。隠れない……!」
「これでもうナンパ野郎撃退とかできないね」
「ええっ……!?」
半泣き状態で慌てて腰にパーカーを巻き付ける彼女は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
それに触れれば肩をビクリと震わせ、オレの中を愛しさが支配していく。
「……やっぱ、嫌だった?」
「……嫌じゃないけど、見えるところは恥ずかしい」
「はは。それじゃあ、今度はもっと付け根に付けるね」
「そっ、……それはもっと恥ずかしいよ」
彼女の言葉に甘えて、そんな狡いことを言わせて。先程湧き上がってきた感情を、それに勝る愛おしさで蓋をした。
「……ねえ、上向いて。キスさせて」
「……やさしくしてね」
「いつもやさしいでしょ?」
彼女にだけは気付かれないように――……そっと。
だから、彼らは気付かなかった。
「あーあ。行っちゃった」
それは、青年が呟いた小さな独り言か。
「……ま、いっか」
その口に溶けた、かき氷の甘美にか。
「連絡待ってるよー。葵ちゃん」
真っ赤な苺からこぼれた誘惑にか。



