すべての花へそして君へ②


 それに不安を覚え顔を上げると、彼女はぼうっと何かを求めるような瞳で来た道を眺めている。


「……あおい」


 湧き上がってくるのは、単なる嫉妬か。


「……どこ見てんだよ」


 顔のアウトラインに手を添え、半ば無理矢理こちらを向かせ唇を奪う。


「ちょっ、ひな、んっ」


 今はオレだけに集中して――と。
 押し返そうとする手を取って縫い付けて。思考をも蕩けさせるようなキスを……繋ぎ止めるキスを、何度も何度も彼女に与えていく。


「……ひ、なたくん。もう……」

「やだ。……まだ、足んない」

「ん、っふ……」


 これは、オレの一方的な我が儘だ。まだこいつと離れたくないっていう独占欲。嫉妬が絡みついた、厄介なもの。……そういうことに、しておこう。


「……!? ちょ、ヒナタくん何してっ」


 片脚を持ち上げ、太もも内側の柔らかいところへ顔を寄せようとすると、彼女は軽く悲鳴のようなものをあげる。


「大きな声出したら誰か来るよ」

「ひっ、ヒナタくんがやめればいいんだよ……」

「やめるわけないでしょ」


 彼女の制止も聞かず、そこへきつく吸い付くようなキスを落とす。必死に声を抑えようとする彼女に、調子に乗って数枚の赤い花弁を散らせれば……少し満足だ。


「か。隠れない……!」

「これでもうナンパ野郎撃退とかできないね」

「ええっ……!?」


 半泣き状態で慌てて腰にパーカーを巻き付ける彼女は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
 それに触れれば肩をビクリと震わせ、オレの中を愛しさが支配していく。


「……やっぱ、嫌だった?」

「……嫌じゃないけど、見えるところは恥ずかしい」

「はは。それじゃあ、今度はもっと付け根に付けるね」

「そっ、……それはもっと恥ずかしいよ」


 彼女の言葉に甘えて、そんな狡いことを言わせて。先程湧き上がってきた感情を、それに勝る愛おしさで蓋をした。


「……ねえ、上向いて。キスさせて」

「……やさしくしてね」

「いつもやさしいでしょ?」


 彼女にだけは気付かれないように――……そっと。





 だから、彼らは気付かなかった。


「あーあ。行っちゃった」


 それは、青年が呟いた小さな独り言か。


「……ま、いっか」


 その口に溶けた、かき氷の甘美にか。


「連絡待ってるよー。葵ちゃん」


 真っ赤な苺からこぼれた誘惑にか。