「あ」
「……今度は何」
「お、怒んないで……」
彼女を連れて歩くこと数分。苛立ちが少し落ち着ちついたところで振り返ってみれば、彼女は麦わら帽子をなぜか手に持っていた。
いや、持っていないで被りなよと、視線を送れば今気付いたかのようにハッとして早々と被る体制に。けれど、どうやらその中に紙のようなものが入っていたらしい。
「……何それ」
もちろん嫌な予感しかしない。けれど気にはなる。
そしてやっぱり彼女もそうだったらしく、ゆっくりとその紙をオープン。
〈これ俺の連絡先
いつでも掛けてきて?
大歓迎だからさ〉
「――貸して!!」
というか奪った。そして破った。ビリビリと。それはもうビリッビリッと。
「……ふふっ」
そんな必死になっているオレを見て、彼女はくすくすと楽しそうに笑っている。この内容にもだけど、それにも無性に苛立った。
そのまま近くにあった岩壁に追い詰め、彼女の唇を奪う。
「んはっ。……ひなたく。いき、できな」
「笑う方が悪い」
「だって、かわいくて」
「うるさい。黙って」
誰が通るかもわからない場所。……でも、それでも耐えらなかった。
どれくらい、時間を忘れて奪い続けただろうか。さすがにやり過ぎたかもしれないと思い唇を離したときにはもう、立っていられなくなった彼女が肩を上下ながら座り込んでいた。……やり過ぎどころの話じゃない。
「ご、ごめん」
これじゃあ完全に八つ当たりだ。最低過ぎる。けれど、目の前に座り込み謝罪するオレに、まだ息も整わない彼女はただ嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ど……どんどんカモーン。いつでも、ウェルカムね」
……ほんと、物好きな奴。
そんなことを思っていると頭に彼女の手が伸びてくる。そして彼女は、オレの髪に指を通しながら「何か思ってるのに、何もない方が不安だから」と小さく呟いた。
「……あおい」
「もちろん、素直に言葉で言ってきてくれてもいいし、言いたくないことなら……嫌なことなら、八つ当たりだってしてきていいんだ」
「それくらい。……ヒナタくんを受け止められないほど、わたしは柔じゃないよ」言いながらオレの頭をそっと撫でてくる彼女は、オレなんかよりも本当に、かっこいい。
「……一生敵いっこないな」
「……? ふふ。わたしも一生、ヒナタくんには敵いっこないよ」
「なにそれ」



