そう言って解けた体の強張りに、俺はひとつ、小さく息を吐く。
「……ユズちゃん。すぐに助けてあげられなくて、ごめんね」
「ううん。かなくんのせいじゃないよ? 悪いお兄さんのせい。それと、警戒心がなかったあたしのせい」
「ユズちゃんは悪くないよ。だから、そんなに勇ましくならなくて大丈夫。ていうかならないで」
「え……?」
腕の中から、少しだけこちらを見上げてくる彼女の頬に触れて。……俺は真っ直ぐ、彼女に視線を合わした。
「何かあったら俺を呼んで。俺の名前、叫んで」
「……かな」
「すぐ駆けつけるから。絶対。何を差し置いてでも」
「……かな。くん……」
「……俺が……」
――俺が、守るから。
揺れた彼女の髪が。石けんのやさしい香りが。鼻の奥をくすぐった。
心の奥底にある“何か”をくすぐった。
大きく――……揺らし続けた。
「……それで? 本当にどこも触られてない?」
「えっ?」
「……どこ触られたの」
「えーっと……」
「言いたくない? なんであいつら庇うの?」
「庇うとかじゃなくて……」
うーん、と悩んだあと。彼女は「腰と、その下」と小さく言った。
「……ごめん。やっぱり顔変形するくらい殴ってくる」
「だ、ダメだってばっ!」
「だから、なんであいつら庇うの」
「違う! かなくんにそんなことして欲しくないだけ!」
パンパンに頬を膨らませて怒る表情がもう、可愛くて仕方がなくて……。
「っ、だったら、何してあげたらいい……?」
「え?」
「どうすることもできないけど、……な、何かしてあげたい」
「……さっき怒ってくれたでしょ?」
「それじゃあ足りない。俺が、……足りない」
「かなくん……」
一瞬の沈黙後、彼女はそっと俺に身を寄せてきた。
「ちょっとだけ、こうしてていい……?」と。「かなくんに、……触れてていい……?」と。
小さくなっていく言葉ごと。俺は強く強く、華奢な彼女の体を抱き締めた。
「……そんなの、いいに決まってるでしょ」
盛大にすっころんで中身をぶちまけていった、先程まで揺れ続けていた感情の名前と一緒に。
――――――…………
――――……
「……ユズちゃん。すぐに助けてあげられなくて、ごめんね」
「ううん。かなくんのせいじゃないよ? 悪いお兄さんのせい。それと、警戒心がなかったあたしのせい」
「ユズちゃんは悪くないよ。だから、そんなに勇ましくならなくて大丈夫。ていうかならないで」
「え……?」
腕の中から、少しだけこちらを見上げてくる彼女の頬に触れて。……俺は真っ直ぐ、彼女に視線を合わした。
「何かあったら俺を呼んで。俺の名前、叫んで」
「……かな」
「すぐ駆けつけるから。絶対。何を差し置いてでも」
「……かな。くん……」
「……俺が……」
――俺が、守るから。
揺れた彼女の髪が。石けんのやさしい香りが。鼻の奥をくすぐった。
心の奥底にある“何か”をくすぐった。
大きく――……揺らし続けた。
「……それで? 本当にどこも触られてない?」
「えっ?」
「……どこ触られたの」
「えーっと……」
「言いたくない? なんであいつら庇うの?」
「庇うとかじゃなくて……」
うーん、と悩んだあと。彼女は「腰と、その下」と小さく言った。
「……ごめん。やっぱり顔変形するくらい殴ってくる」
「だ、ダメだってばっ!」
「だから、なんであいつら庇うの」
「違う! かなくんにそんなことして欲しくないだけ!」
パンパンに頬を膨らませて怒る表情がもう、可愛くて仕方がなくて……。
「っ、だったら、何してあげたらいい……?」
「え?」
「どうすることもできないけど、……な、何かしてあげたい」
「……さっき怒ってくれたでしょ?」
「それじゃあ足りない。俺が、……足りない」
「かなくん……」
一瞬の沈黙後、彼女はそっと俺に身を寄せてきた。
「ちょっとだけ、こうしてていい……?」と。「かなくんに、……触れてていい……?」と。
小さくなっていく言葉ごと。俺は強く強く、華奢な彼女の体を抱き締めた。
「……そんなの、いいに決まってるでしょ」
盛大にすっころんで中身をぶちまけていった、先程まで揺れ続けていた感情の名前と一緒に。
――――――…………
――――……



