そのことについて嘘と言ったわけじゃないんだけど。というか、さすがに暴力振るうつもりは最初からなかったよ。……失神はさせたけど。
あれくらいは、……ユズちゃんを怖い目に遭わせたんだし、まあ俺だってキレてたわけだし。
「でも俺は、かっこいいことなんてひとつも……」
「し、心配してくれたし……。やさし、くて。うっ、うれ。し……」
「え。ゆ、ユズちゃん……?」
そんなことを思っていたらいきなり彼女が泣きはじめた。
お、俺泣かすようなことした? 言った? それとも、そんなにその顔俺に見られるのが嫌だった……とか。
でも、確かに見られるのは嫌だったのかも知れない。だって、今のユズちゃんの顔、誰にも見せたくない。
「か……かな。くん」
「う、うん。なに? ……ごめん。まさか泣くほど嫌だったとは」
「うれっ。うれし……」
「え……?」
慌てて、目元から絶え間なく流れる涙を指で拭ってあげていると、その手にそっと、彼女の手が添えられる。
「さわって。くれたっ……」
「……え」
「かなくんから。手。にぎって……」
「……」
「ほ、ほっぺたも。なみだもふいて……。うぇええ」
「……ゆずちゃん」
さすがに、泣き顔は見られたくなかったのだろう。俯いて流す彼女の熱い涙が、繋いだ手にたくさん落ちてきた。
――――ああ。これは、マズい。
「……! か。かな。くん……?」
衝動に抗えなくて、そっと頭を引き寄せると、彼女は不安げな声を上げながら体を強張らせた。
「あとで。もう一回かき氷買いに行こ」
「え……?」
「折角買ってくれたのに、ダメにしてごめんね」
「……で。でも、かなくんのお金だし」
「あれ、カエデさんが昨日のお詫びってくれたんだ。俺もう所持金200円だったから」
「え!? そ、そうだったんだ……」
「でも、俺がそうしたかったから。ユズちゃんが謝ることはないよ」
「……でも」
「だから。もうないから、あんまり集らないでね」
「……へへ。はーいっ」



