すべての花へそして君へ②


 そのことについて嘘と言ったわけじゃないんだけど。というか、さすがに暴力振るうつもりは最初からなかったよ。……失神はさせたけど。
 あれくらいは、……ユズちゃんを怖い目に遭わせたんだし、まあ俺だってキレてたわけだし。


「でも俺は、かっこいいことなんてひとつも……」

「し、心配してくれたし……。やさし、くて。うっ、うれ。し……」

「え。ゆ、ユズちゃん……?」


 そんなことを思っていたらいきなり彼女が泣きはじめた。
 お、俺泣かすようなことした? 言った? それとも、そんなにその顔俺に見られるのが嫌だった……とか。
 でも、確かに見られるのは嫌だったのかも知れない。だって、今のユズちゃんの顔、誰にも見せたくない。


「か……かな。くん」

「う、うん。なに? ……ごめん。まさか泣くほど嫌だったとは」

「うれっ。うれし……」

「え……?」


 慌てて、目元から絶え間なく流れる涙を指で拭ってあげていると、その手にそっと、彼女の手が添えられる。


「さわって。くれたっ……」

「……え」

「かなくんから。手。にぎって……」

「……」

「ほ、ほっぺたも。なみだもふいて……。うぇええ」

「……ゆずちゃん」


 さすがに、泣き顔は見られたくなかったのだろう。俯いて流す彼女の熱い涙が、繋いだ手にたくさん落ちてきた。

 ――――ああ。これは、マズい。


「……! か。かな。くん……?」


 衝動に抗えなくて、そっと頭を引き寄せると、彼女は不安げな声を上げながら体を強張らせた。


「あとで。もう一回かき氷買いに行こ」

「え……?」

「折角買ってくれたのに、ダメにしてごめんね」

「……で。でも、かなくんのお金だし」

「あれ、カエデさんが昨日のお詫びってくれたんだ。俺もう所持金200円だったから」

「え!? そ、そうだったんだ……」

「でも、俺がそうしたかったから。ユズちゃんが謝ることはないよ」

「……でも」

「だから。もうないから、あんまり集らないでね」

「……へへ。はーいっ」