すべての花へそして君へ②


「ちがうのっ……!」

(……え?)


 ふと我に返ると、目の前の彼女はやっぱり震えていて。必死に、顔を隠していた。


「ユズ、ちゃん……?」

「別に、怖かったんじゃないの」

「……でも震えて」

「これは……、その」

「ん……?」


 もごもごと、くぐもった声が聞こえるように顔を近づけると、「かっこ。よかった、から……」と、蚊の鳴くような声が。


「……ああ、うん。そうだね。確かにかっこよかったね」


 俺も、アオイちゃんくらいかっこよくできたらなー。……いや、さすがにあそこまでいこうとは思わないけど。でも、大事な子を守れるようには……。


「ちっ、ちがうよ……!」

「え?」


 震えた指が、俺の中指一本をぎゅっと捕まえる。……弱々しくてやっぱり震えてて。細くて白くて、綺麗な手。


「た、確かにあおいちゃんかっこよかったけど……。あっ、あたし、あおいちゃんならイケるんだけど……」

「え」


 す、好きだとは言ってたけど、まさかそこまでだったとは。俺は、いろんな意味でアオイちゃんに負けるんだな。はは。ははは……はははは……。


(――……え)


 い、いろんな意味って……?


「いっ、今のはっ、かなくんに言ったの!!」

「っ、えっ?」


 自問の答えを見つける前に、彼女の大きな声に驚いてまた我に返る。


「……お、俺?」

「うんっ」


 彼女は、俺のパーカーを首元でぎゅっと握り締めながら、相変わらず中指を震える手で握っていた。
 ……ああ。どうしよう。


「ユズちゃん。顔、上げて……?」

「……今は、ダメ」

「そうなの? ……どうして?」

「今すっごい不細工だから、かなくんに絶対引かれるもん」

「……じゃあ、絶対に引かないって言ったら、顔上げてくれる?」

「っ、え……?」


 中指をそっと抜いて。その手を取って握り直して。俯く彼女の、垂れた横髪を耳に掛けながら、熱く熱くなった頬に、そっと手を当てる。


「か、かな。くん……」


 無理矢理上げた顔は、俺が思っていた以上に真っ赤に染まっていて……。


「ユズちゃんの嘘つき」


 ことり。俺の中の奥にあるものを、容易に動かした。


「えっ? う、うそ……?」

「うん」

「うっ、うそじゃないよ……! かなくんかっこよかったし、あの人たちにな……何を言ったかまでは聞こえなかったけど、怒ってくれたし。殴らなかったし……」