「ちがうのっ……!」
(……え?)
ふと我に返ると、目の前の彼女はやっぱり震えていて。必死に、顔を隠していた。
「ユズ、ちゃん……?」
「別に、怖かったんじゃないの」
「……でも震えて」
「これは……、その」
「ん……?」
もごもごと、くぐもった声が聞こえるように顔を近づけると、「かっこ。よかった、から……」と、蚊の鳴くような声が。
「……ああ、うん。そうだね。確かにかっこよかったね」
俺も、アオイちゃんくらいかっこよくできたらなー。……いや、さすがにあそこまでいこうとは思わないけど。でも、大事な子を守れるようには……。
「ちっ、ちがうよ……!」
「え?」
震えた指が、俺の中指一本をぎゅっと捕まえる。……弱々しくてやっぱり震えてて。細くて白くて、綺麗な手。
「た、確かにあおいちゃんかっこよかったけど……。あっ、あたし、あおいちゃんならイケるんだけど……」
「え」
す、好きだとは言ってたけど、まさかそこまでだったとは。俺は、いろんな意味でアオイちゃんに負けるんだな。はは。ははは……はははは……。
(――……え)
い、いろんな意味って……?
「いっ、今のはっ、かなくんに言ったの!!」
「っ、えっ?」
自問の答えを見つける前に、彼女の大きな声に驚いてまた我に返る。
「……お、俺?」
「うんっ」
彼女は、俺のパーカーを首元でぎゅっと握り締めながら、相変わらず中指を震える手で握っていた。
……ああ。どうしよう。
「ユズちゃん。顔、上げて……?」
「……今は、ダメ」
「そうなの? ……どうして?」
「今すっごい不細工だから、かなくんに絶対引かれるもん」
「……じゃあ、絶対に引かないって言ったら、顔上げてくれる?」
「っ、え……?」
中指をそっと抜いて。その手を取って握り直して。俯く彼女の、垂れた横髪を耳に掛けながら、熱く熱くなった頬に、そっと手を当てる。
「か、かな。くん……」
無理矢理上げた顔は、俺が思っていた以上に真っ赤に染まっていて……。
「ユズちゃんの嘘つき」
ことり。俺の中の奥にあるものを、容易に動かした。
「えっ? う、うそ……?」
「うん」
「うっ、うそじゃないよ……! かなくんかっこよかったし、あの人たちにな……何を言ったかまでは聞こえなかったけど、怒ってくれたし。殴らなかったし……」



