さっきから機嫌が悪いせいで、お兄さんにまで被害が……。すみません、と慌てて頭を下げた。


「女の子に頭下げさせるなんて、困った弟さんだね」

「え」

「彼氏ですけど」

「あ。そうなんだ。じゃあ、最低な彼氏だね」

「え!?」

「ええそうですね」

「ええっ?!」


 待て待て待てーいっ!! なんでそんなに喧嘩腰なのっ。


「……あ! そ、そうだ帽子!」

「ん? ……ああ。麦わら帽子はちゃんと預かってるよ。取ってこようか?」

「あ、いえ。それもなんですけど……」


 借りしていたキャップをお返しすると、「お役に立てたようで何より」と、素敵な笑顔でお兄さんは笑う。そして、ついでに預かってもらっていた麦わら帽子も取ってきてもらうようお願いした。


「できた彼女さんだね」

「ええ。本当に」

「ひ、ヒナタくん……」


 お兄さんが席を外している隙に、目線で「あいつマジ誰。どういう関係なわけ」と言われたので、お話しさせていただきます。
 罰ゲームで、自撮りとの格闘をしていたわたしに声をかけてきたのがさっきのお兄さん。


『こんにちは。俺、そこの海の家で働いてるシズルって言うんだけど』


 大学生ぐらいのお兄さんは、一応パラソルがあるけど暑いだろうから海に入らないのならうちで涼んでおきなよと。わたしの体調を気遣って、そう声をかけてきてくれたのです。


「それなのにヒナタくん。あんな言い方して……」

「……ごめんって」


 まあ、連れがいるからって、目の前のお方が帰ってきたらそれは相談するってことにして。ついでに自撮りの方法を聞いてたんだけど……。


「は? ……え。自撮りの仕方わかんないの? ていうか何聞いてんの」

「いや、上手く撮る方法をですね? 教わろうとしただけで……」


 スミマセンと一言。それでまあ、海の家の方が何か様子がおかしいってことに気が付いて……。


「それで、お兄さんにスマホと麦わら帽子持っててもらって、その代わりにキャップ借りて、ユズちゃんを助けに馳せ参じました」


 ちなみに、動画の撮影者はお兄さん。一部始終完璧に撮っていてくれました。動画の画面のままだったからな。『面白そうだと思って撮っちゃった』と、爽やかな笑顔で言ってました。


「よくよくわかる説明をどうもアリガトウ」


 ううぅ……。すこぶるご機嫌が悪いぞ……。


「本当は俺が行かなきゃなんなかったのに。ごめんね? 女の子に行かせちゃって」


 そして帰ってきてしまったあー……。


「い、いえ。腕には自信があるので……」

「そうみたいだね。俺もそこそこ腕には自信があるからここに雇われたんだけど……」


「こういうトラブルって多いからさ。さっきおばさんに大目玉食らったよ」と、どうやら相当叱られてしまったお兄さん。素敵な笑顔が若干引き攣っている。