『どぉぉおおりゃぁああ!! 必殺うぅー…………あ。ちょっと待って。名前考えてなかった』


 先程まで実際に起こっていたアホな映像の一部始終が、未だにスマホ画面から流れている。……あ。これからだよ。今からがクルクル回転の新必殺技が――――


「どういうこと」

「スミマセン……」

「謝ってって言ってるんじゃない」

「やり過ぎました……」

「そういうことを言ってるんでもない」

「名前、考えてなくて……」

「そういうわけでもない」


 今は場所を移動し、海の家の外に設置してあるひと席をお借りして、彼から愛のお説教を受けていますわたしが大暴れしたもんだから、お店の中からとか遠巻きとか、いろんな人からの視線を感じるけど……。
 ヒナタくんのものすごい剣幕のせいか、さすがに誰も近寄っては来なかった。正直わたしも今すぐこの場から離れたいぃぃ……。


『悪い子はお母さんにお尻叩いてもらいなさぁあああーい!!!!』


 あっという間に最後の一人。それを投げ飛ばした、キャップを被った小柄な子に、絡まれていた女の子は無事助けられた。


『――ふんっ! 今度わたしの大事なお友達に指一本でも触れてみろ! 沖まで投げ飛ばしてやるからな!!』

『きゃあー! あおいちゃんかっこいいーっ!!』


 腰に手を当て、鼻を鳴らす小柄な子の腕に、絡み付くように腕を回す女の子――――


『……ちょっと。あんた何やってるの』

『あ! ヒナタくん! 見ててくれた? わたしの新必殺技!』

『見てない興味もない』

『えー……。ほんとはね? あれをトーマさんとシントにおみまいする予定だっ――』

『今からお説教をします』

『ええ!?』


 ……から、砂浜で完全に伸びきっている男どもへアングルが切り替わるとそんな声が入ってくる。
 声を頼りに動いたカメラがバッチリとらえたのは、過保護な男の子が、勇敢な子の腕を引っ掴み、スタスタスタと海の家の方へと強制連行していく様子だった。


「ちょっと、聞いてるの」

「き、聞いてますう……」


 そして、未だそんな映像を鑑賞しつつ、恐怖の尋問が行われているという現在に至るわけです。


「まあまあ。そんな怒んないであげてよ」


 と、そっと目の前に置かれたのは、頼んでもいないかき氷。え? と思って見上げると、「サービスだよ」と店員のお兄さんからウインクが飛んでくる。


「さ、サービス?」

「うん。あれだけコテンパンにされたんじゃ、あいつらももう悪さしないだろうし」


「何より、警察沙汰にならずに済んだから、そのお礼」と、腰エプロンを外しながらその人は笑う。


『――放せって言ってんだろ』


 そして、あろう事かすっかり腰据えて、もう一回さっきの映像見始めちゃったんですけどこの人。


「……で。あんた誰。オレらになんか用」

「ヒナタくんっ。そんな言い方しないのっ」