「やっ、離してください!」


 そこでは、ポニーテールの女の子がガラの悪い男数人に囲まれていた。


「いいじゃん。俺ら女の子いなくて寂しくてさ」

「ちょっとだけでいいから話そうよ」

「なんなら奢ってあげるからさー」


 これはさすがに不味いのではないか。でも巻き込まれてしまうのも……。
 ざわざわと、遠巻きで見ている人たちのそんな声が聞こえるものの、絡まれてしまった彼女の腕や腰は男たちに取られ――


「いりません! はな、してッ!!」


 今まさに、連れて行かれようとしていた。


「――放せって言ってんだろ」


 しかし、そんなベタな展開に颯爽と現れた一人の勇敢な少年が、彼らの前に立ちはだかった。


「はあ? ……ハハッ。なんだよガキ。お前も混ざりたいのか?」


 ゲラゲラと。そんな少年に男どもは品のない声を上げて嗤う。
 ――――けれど、それもほんのわずかな時間だった。


「嫌がってんだろ、つってんだ」

「……っ、なんだこのガキ」


 ミシミシと、音を立てそうなほど掴まれた腕を、男は慌てて外し距離を取る。


「……えっ」

「大丈夫? 怪我はない?」

「え? う、うん。怪我はないよ……?」

「……ごめんね。助けるのが遅くなって」

「え?? ……えっと。あ」

「もう大丈夫だから」

「あ、あのっ、あ」

「許さない……」

「えっ! ちょ、落ち着い――」

「ユズちゃんに触ったこと、後悔させてやる」


 少年は女の子を背に庇い、男たちと向き合った。


「よくも、その汚い手でわたしの大事なお友達に触りやがったな!!」

「あ、あおいちゃん……!」

「わたしだってまだユズちゃんのお尻触ったことないのに!!」

「あおいちゃん!? あ、でもあたし。あおいちゃんになら……」

「誰の許可なく触ったのか、覚悟はできてんだろうな、お前ら」

「あ、あおいちゃん聞いてー……」


 バキバキバキッと。ゴキゴキゴキッと。
 指を、足首を、首を、肩を、膝を、腰を、粗方鳴らした少年……否、キャップ帽を被った少女は、立てた親指をスッと下方へと堕とす。


「わたしを敵にまわしたこと、後悔しな」


「あ。でもリミットかけなかったら本当に殺しかねないから……ちょちょっと遊ぶだけにしてあげるよ」……と。そんな怖いことをてへっと笑顔で言いながら、少女は粉塵を巻き上げて男どもに飛びかかっていったのだった。


 ――――――…………
 ――――……