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「「そこのお兄さ~んっ。一人?」」

「あ。……ううん。連れがいる」

「男!?」

「ううん。女の子」

「そっか~残念」

「こんなにイケメンなんだもん。彼女くらいいるよー」


「「失礼しました~」」と、同年代の女の子たちが俺の前から気持ちのいいくらい潔く去って行く。……それに重なる去年の自分。
 去年の今頃はバッチリナンパしてたからな。今年は普通に、みんなと遊ぼうかと思ってたけど。


(今年は、ユズちゃんの財布だな……)


 はあと一人ため息。別に嫌なわけじゃない。今までのこともだけど、友達以上にユズちゃんのこと好きだし、女の子には優しくがモットーだし。
 只今ユズちゃんは、俺の財布からお金を抜き取りかき氷を買いに行っていた。多分俺の分も。楽しそうにしてるから俺も楽しい。それに、昨日アオイちゃんとの会話のこともあって……ま、いろいろ考え中だ。


(にしてもユズちゃん遅いな……)


 すぐそこの海の家へ買いに行っただけなのに、かれこれ20分。混んでるのかな? 混んでたらそれくらいかかるか。


「うわっ! 誰……!?」


 そんなことを考えていると、後ろから誰かにどつかれた。一瞬、髪が黒くて忘れてたけど……。


「ははっ。あー、ヤバい。ちょーウケる」


 どうやら、ヒナくんが俺に突進してきたらしい。ものすっごい笑顔で。
 何がそんなにおかしいのか、そのあとも彼は腹を抱えて大爆笑。恐らく原因はアオイちゃんだろうけど、こんなに笑った彼を、俺は見たことあるだろうか。
 それくらい、ここまで笑うヒナくんを、俺は物珍しく見ていた。


「もう限界。我慢するのほんとしんどかったーっ。ていうかさ、たこ焼きってソースが命でいいのっ? たこじゃなくて? ははっ!」


 ……うん。紛う方なく彼女が原因だろう。けど、あまりにも笑いのツボが浅すぎる君に俺はビックリだよ。
 そんなことで笑ってたの? 今まで? いや、アオイちゃんのことだから、ものすごい変な顔でもしたんだろうけど……。


「なんで我慢してたの?」

「え。動画撮ってたから」


 そこまでいったらもはや執念だね。


(……じゃあ、アオイちゃんは?)


 さっきまで一緒にいたであろうパラソルの方に目を向けると、なぜか彼女は、スマホと睨めっこしてた。