帽子のツバをぎゅっと掴んでいると、持ってきたクーラーボックスの、バタンと閉じる音がした。どうしたのかと帽子を上げると、耳から頬にかけて、やさしく冷たいタオルが当てられる。……きっと、そこが赤かったんだろう。
「確かに、見られたくはないけど見たくないわけじゃない」
「……え?」
「オレは、あおいのそういう反応が見たいからしただけ」
またブヒッと鼻を軽く押された。「はは。ぶさいく」って言いながら無邪気に笑うヒナタくん。……どうやら、『豚まん』はイイ線までいってたらしい。
「だから、オレが見終わったら赤いの治めてね」
「そんな器用なことできないよ!?」
「やってないのにはじめから諦めるの」
「そんな器用なことできたらそもそもヒナタくんの前でも抑えられてるよ!」
「オレの前で抑えてどうすんの。赤くさせようとしているオレの努力を無駄にするの」
「そんな努力しないでください……」
結局のところ、膨らませたほっぺたをまた潰されて、ブッ! って鳴らされて笑われて……。
「じゃあ、ちょっとオレ飲み物でも買ってくるから」
「その間に頑張って自撮りしてくださいね、不細工さん」と、とってもとっても可愛い笑顔を残して、彼は立ち去っていきました。
……海も危険だけど、わたしの場合一番危険なのは彼だと思うんですよね。断トツで。あー、あっつい。
「いや、ちょっと待て」
さっきのキスで、愛を囁く必要なくなったのでは……?
「……いや。あるわ。そのあと棒倒したからちゅーされたんだったわ」
渡されたスマホと、じっと睨めっこ。そしてふと思い至る。そういえばわたし、ヒナタくんのスマホの中身見るの、初めてだ。
「……いや、再び待てわたし。そして落ち着けわたし……」
なんか怖いぞ。なんでか怖いぞ……? なんでかわかんないけど、ある種の爆弾みたいに見えるぞ、このスマホ……。
(……と、取り敢えず、任された任務を遂行しますか)
そうして挑戦すること数分後。完全諦めモードに突入し、どうせならと上手く自撮りする方法を考えていたわたしの目の前が、急に音もなく陰る。どうやらもう帰っていらしたようだ。
「ごめんヒナタくん。上手くいかなくてギブアップしようかと……え?」
そう思っていた。顔を上げる、直前までは。
「こんにちは。麦わら帽子の可愛いお嬢さん」



