振り返ってそんな会話をしていると、彼に見えないところで二人が嬉しそうに笑っていた。『大丈夫そうで安心した』と。『何かあったら、俺らも知ってるから言っておいで』と。きっと、そう言ってくれていた。


「それじゃあ。葵ちゃんの水着姿楽しみにしてるね~」

「目、潰してやる」

「あとで俺といちゃついてね~葵」

「砂に埋めてやる」


 ヒナタくんの肩に顎を置きながらそんなことを言った二人は、楽しそうな笑顔で部屋を出て行った。なんともまあ、嵐のようですな。


「はあ。……やっと静かになった」

「ははっ。朝から楽しかったね!」


「朝からあんな激しい楽しさを求めてない」と、大きなため息をつく彼は、よっぽど今ので疲れてしまったらしい。くすくすと笑っていると、むっとむくれたのち、申し訳なさそうに首に手をやる。


「いや、寝るつもりはほんとに……もうちょっと寝かせてあげたかったんだけど」

「大丈夫大丈夫ー! ヒナタくんの方こそだいじょうぶ」


 立ち上がろうとしたら、ふらっ……と立ちくらみが。危うく倒れそうになった体を、彼は容易に抱き留めてくれる。


「……大丈夫? ごめん。さすがにやり過ぎた自覚はある」


 そして今度はさっきと逆で、申し訳なさそうな顔をしたあとに、むすっと少しだけ唇を尖らせた。


「……ちょっと、妬いたんだって」


「オレ以外の奴の腕の中で笑うの禁止ね」と、ぎゅっと抱き締めてくる前に見えたのは、少し照れくさそうな顔。そんな、珍しく嫉妬剥き出しの彼に、そっと顔を上げてみる。


「恥ずかしい?」

「……ん」

「ふふ。二人はわたしのお友達だから。朝から元気だな~って思ってただけだよ?」

「わかってるけど、嫌なんだって」

「はは。ごめんね……?」


 すっかり拗ねてしまった彼の頭をぽんぽん。もう一度抱き寄せた彼からは、「ん」と嬉しそうな音がした。


「そういえばヒナタくんも大丈夫だった? 朧気だけど、起きたときすごい音が聞こえたような……」

「あー。……うん。恐らく二人に蹴っ飛ばされた」

「え!? な、なぜ!?」

「オレも、さっきの二人みたいに、あおいに抱きついて寝ちゃってたから」


 驚きで目を丸くしていると「……嫌、だった……?」と、少々気まずいのか、彼は少し視線を逸らす。


「……ううん。寧ろ、知らなくてもったいなく思ってたとこ」


 確かに、残った彼のぬくもりと一緒に目は閉じたけど。まさか、本物のぬくもりに包まれてたなんて。
 いい夢を見ていた気がするのは、彼がいてくれたからかな。胸の奥が、ほっこりした。