「「今、まだ6時半ぐらいだからー!」」
それでなぜ抱きついてくる。なんでしょうもないことで嘘ついたの。
「おい」
そんな二人の頭を、彼は足で交互に踏ん付けているんだけれど。真横にいる二人はとっても笑顔で、それが逆に怖かった。
「葵ちゃん。体調は大丈夫?」
「え、ええ……。な、なんとか」
「もう大丈夫みたいって聞いたけど、心配で心配で」
「わ、わかったからシント……。踏まれながら笑わないで」
「今日は無理しないんだよ? あれだったら俺が海よりももっと楽しいところに案内してあげうお(むぎゅぎゅぎゅ……)」
「い、いえ。せっかく海に来たので……」
「何かあったら遠慮なしに言ってよね。誰よりも俺が葵のこと、一番知ってるんだかあ(むぎゅぎゅぎゅぎゅ……)」
「……。あなたたち懲りないね」
けどまあ、こういうのも楽しいなと。
それがなんだかおかしくて笑っていたら、頭上からいきなり伸びてきた手で両手首を掴まれ――スッポン! 彼の足の間をくぐったかと思ったら、ドンッ! と壁に頭を強打しました。
「いい加減にしてくださいよ、二人とも。あんたも、なに嬉しそうにニヤニヤしてるの」
「いやいや……」
「日向……」
「いたいよ~……」
こちらを向く彼は、はじめはそんな口調でムスッとしてたけれど。わたしにだけわかるように小さく笑ったあと、ごめん。やり過ぎたと片目を瞑って謝ってくる。
(……はっ、初ウィンク戴きましたっ……)
わかっていても、そんな可愛い悩殺ウィンクにハートをズキュンッ! 赤い顔を見られたらまた文句を言われると思い、慌てて壁に向かって正座をしておくことに……。
許しましょうとも許しましょうとも。とってもいいものもらいましたので。
「はあ。……日向。醜い嫉妬は嫌われる元だぞ。そうしてくれて俺は大歓迎だけど」
「うっさい。さっさと出てけ」
「まあ俺らは、醜い嫉妬をさせまくって葵に嫌われてしまえ作戦を決行中だけどね」
「海に沈んでください」
仲の良さそうな会話が聞こえてきて、やっぱりちょっとそれがおかしくて笑ってたら、背後から枕が飛んできて、壁にゴンッとおでこを打ち付けた。
「いたたた……」
「元気になったなら、部屋戻ってあの惨劇の後処理頑張って」
「はっ! そうだった!!」
大変だ。これが一番大変だ。そして何より、もう一泊あるぞ……?



