すべての花へそして君へ②


 ――カチッ。


(あ。あれ……)


 変なスイッチの音が聞こえたかと思ったら、お布団の中からヒナタくんが消えていた。……すごい。そんな特技があったとは。
 そんな感心している余裕は、ハッキリ言って全然なかった。


「寝なさい」


 ……あれ。どっかで見たぞ。このシチュエーション。


「いいから寝なさい。……わかった?」


 お布団わたしから脱出したヒナタくんは、じと目で見下ろしてくる。船の上の、わたしのときよりは、だいぶやさしいけど……。


「わ か り ま し た か」

「……ふぁい」


 近い。ヒナタくん近い。返事をすぐにしなかったわたしが悪いんだけど、おでこコツンってしたときちょっと痛かったから。
 無理矢理ハイと言わせて満足したのか。彼は布団の上から立ち上がり、なぜか扉の方へと向かって行く。


「ど、どこ行くの……?」


 返事もなく振り向きもしない。無視したまま本当にここから出ていくつもりらしい。
 そんなに怒らせてしまったのかと、ごめんなさいと、一言謝ろうと布団から起き上がったら。


「寝てなさい」

「……! えっと」


 今度は振り向いてくれたけど、もう扉に手をかけていた。だから慌てて、ごめんなさいと謝った。


「……なんであおいが謝るの」

「だ、だって、怒って出て行っちゃうんでしょ……?」


 でも、ちょっと落ち着いて考えてみれば、さっきのわたしだいぶ暴走してなかったか……? は、恥ずかしい。
 それに、優先事項のことを話したのはわたしの方だ。今は、ちゃんと元気にならなくちゃいけなかったんだ。もうほとんど元気だけど、間違えちゃったわたしが悪いから。


「男の子にもねえ、いろいろあるんです」

「……へ?」


 扉の前で腕を組み、そんなことを言ってきた彼は、怖いくらいの笑顔でこちらを見てきていた。


「女の子にも、いろいろあるんだよね~? みたい」

「……えーっと」

「男の子にもー、いろいろあるんだよねー。みたい」

「……そ、そうなん」

「オレが帰ってくるまでに寝てないと、身包み全部引っ剥がすからねっ」


 ――キッ! っと。最後、ちょっと可愛く睨んできた彼は、そう言い放って勢いよく部屋を飛び出した。