――カチッ。
(あ。あれ……)
変なスイッチの音が聞こえたかと思ったら、お布団の中からヒナタくんが消えていた。……すごい。そんな特技があったとは。
そんな感心している余裕は、ハッキリ言って全然なかった。
「寝なさい」
……あれ。どっかで見たぞ。このシチュエーション。
「いいから寝なさい。……わかった?」
お布団わたしから脱出したヒナタくんは、じと目で見下ろしてくる。船の上の、わたしのときよりは、だいぶやさしいけど……。
「わ か り ま し た か」
「……ふぁい」
近い。ヒナタくん近い。返事をすぐにしなかったわたしが悪いんだけど、おでこコツンってしたときちょっと痛かったから。
無理矢理ハイと言わせて満足したのか。彼は布団の上から立ち上がり、なぜか扉の方へと向かって行く。
「ど、どこ行くの……?」
返事もなく振り向きもしない。無視したまま本当にここから出ていくつもりらしい。
そんなに怒らせてしまったのかと、ごめんなさいと、一言謝ろうと布団から起き上がったら。
「寝てなさい」
「……! えっと」
今度は振り向いてくれたけど、もう扉に手をかけていた。だから慌てて、ごめんなさいと謝った。
「……なんであおいが謝るの」
「だ、だって、怒って出て行っちゃうんでしょ……?」
でも、ちょっと落ち着いて考えてみれば、さっきのわたしだいぶ暴走してなかったか……? は、恥ずかしい。
それに、優先事項のことを話したのはわたしの方だ。今は、ちゃんと元気にならなくちゃいけなかったんだ。もうほとんど元気だけど、間違えちゃったわたしが悪いから。
「男の子にもねえ、いろいろあるんです」
「……へ?」
扉の前で腕を組み、そんなことを言ってきた彼は、怖いくらいの笑顔でこちらを見てきていた。
「女の子にも、いろいろあるんだよね~? みたい」
「……えーっと」
「男の子にもー、いろいろあるんだよねー。みたい」
「……そ、そうなん」
「オレが帰ってくるまでに寝てないと、身包み全部引っ剥がすからねっ」
――キッ! っと。最後、ちょっと可愛く睨んできた彼は、そう言い放って勢いよく部屋を飛び出した。



