すべての花へそして君へ②


「大丈夫。もう、たくさんたくさん大事にしてもらってる。やさしくだって、もう十分してもらってるよ」


 頬に添えられた手に自分のを重ねて。ほんの少しだけ震える手を、ぎゅっと握る。


「あおいさん。わかってくださいよ」

「いいえヒナタさん。わかっていらっしゃると思いますが、わたし頑固なんで一度決めたらなかなか曲げられないんです」

「……そうやって、オレのこといじめるんだね」

「いじめてるわけじゃないよ? わたしはしたいことしてるだけだもん」


 重ねた手を絡めて。感触を確かめるように、何度も何度もにぎにぎする。


「……かわいいこと、しないで。ほんと、マジやばいから」


 離れようと、手をもぞもぞと動かすけれど、その手を逃がすまいと、両手で包み込んだ。


「もう……。ちょっと楽しんでるでしょ」


 困ったような顔で。拗ねたような口調で。そしてまたとんがった唇がまたかわいくて。
 そっと、わたしのを重ねた。


「んっ。……ちょ、あお」


 言いかけた言葉をわたしが飲み込んで。さっき彼がしてくれたみたいな、飛び切りやさしいキスを。
 唇に。頬に。鼻のてっぺんに。目に。おでこに。ゆっくり。ゆっくりと落とす。


「ヒナタくんだけだと思ったら、大間違いだぞ」

「はあ……。……え?」


 握っていた彼の手を、もう一度わたしの頬に当てて……。


「わたしだって欲深いって言ってるんだ、このやろう」

「え」

「わたしだって、ヒナタくんに触ってもらいたいってことっ」


 頬に唇を寄せて、もう一度キスを落として。そっと離したほぼゼロの距離で聞いてみる。


「いっぱいキス、してもい?」


 でも、答えは待たなかった。
 さっきは彼も、同じことを言ってたけど……今はきっとダメって言うから。


 ほんの少し身を引こうとする彼の頬へ、両手を包み込むように添えて。何度も触れる。これでもかと言うほど時間をたっぷりかけて。
 押しつけるように触れて、そっと離して。溜めて……焦らして、もう一度触れにいって。


「ん……」


 漏れた彼の小さな声を合図に、今度は啄むようにキスをする。
 好きって想いの分だけ。なくなることのない想いの分だけ。何度も……何度も。ずっとずっと、キスをする。

 とん、とん。

 けれど、さっきわたしがしたのと同じように肩を叩かれてしまった。やめたくなかったけど……そっと離れた場所で、そっと囁く。


「……キス、してくれる……?」