「大丈夫。もう、たくさんたくさん大事にしてもらってる。やさしくだって、もう十分してもらってるよ」
頬に添えられた手に自分のを重ねて。ほんの少しだけ震える手を、ぎゅっと握る。
「あおいさん。わかってくださいよ」
「いいえヒナタさん。わかっていらっしゃると思いますが、わたし頑固なんで一度決めたらなかなか曲げられないんです」
「……そうやって、オレのこといじめるんだね」
「いじめてるわけじゃないよ? わたしはしたいことしてるだけだもん」
重ねた手を絡めて。感触を確かめるように、何度も何度もにぎにぎする。
「……かわいいこと、しないで。ほんと、マジやばいから」
離れようと、手をもぞもぞと動かすけれど、その手を逃がすまいと、両手で包み込んだ。
「もう……。ちょっと楽しんでるでしょ」
困ったような顔で。拗ねたような口調で。そしてまたとんがった唇がまたかわいくて。
そっと、わたしのを重ねた。
「んっ。……ちょ、あお」
言いかけた言葉をわたしが飲み込んで。さっき彼がしてくれたみたいな、飛び切りやさしいキスを。
唇に。頬に。鼻のてっぺんに。目に。おでこに。ゆっくり。ゆっくりと落とす。
「ヒナタくんだけだと思ったら、大間違いだぞ」
「はあ……。……え?」
握っていた彼の手を、もう一度わたしの頬に当てて……。
「わたしだって欲深いって言ってるんだ、このやろう」
「え」
「わたしだって、ヒナタくんに触ってもらいたいってことっ」
頬に唇を寄せて、もう一度キスを落として。そっと離したほぼゼロの距離で聞いてみる。
「いっぱいキス、してもい?」
でも、答えは待たなかった。
さっきは彼も、同じことを言ってたけど……今はきっとダメって言うから。
ほんの少し身を引こうとする彼の頬へ、両手を包み込むように添えて。何度も触れる。これでもかと言うほど時間をたっぷりかけて。
押しつけるように触れて、そっと離して。溜めて……焦らして、もう一度触れにいって。
「ん……」
漏れた彼の小さな声を合図に、今度は啄むようにキスをする。
好きって想いの分だけ。なくなることのない想いの分だけ。何度も……何度も。ずっとずっと、キスをする。
とん、とん。
けれど、さっきわたしがしたのと同じように肩を叩かれてしまった。やめたくなかったけど……そっと離れた場所で、そっと囁く。
「……キス、してくれる……?」



