「明日は海入らないといけないから、今日はもう寝よっか」
「わわ。新しいタイプの意地悪だ……」
「え? そう?」
「だって……」
意地悪するとしたらきっと、息の根を止めにくるくらいのちゅーが飛んでくると思ったのに。……そう思ってる時点で、それを覚悟してたわたしのM属性にだいぶ驚くけど。
「でも、ちょっとこれ以上は……」
あれ。でもヒナタくん、本当に意地悪でも何でもなくて言ってるみたいだ。……それはそれで、ちょっと寂しい。まだ、心臓が止まるくらいのキス、してくれた方がいい。
「やだ」
「え。……あおい」
「もう一回。……もういっかい、だけでいいから」
お願い、と。思い切って抱きついてみるけれど、触れた箇所から伝わってきたのは、彼の困ったような動揺。
確かに、まだ物足りなくてキスしたいのは本当。……でも、決して困らせたいわけじゃないんだ。それと同時に、わたしばかりもっともっとと求めてしまったことが、今更になって、恥ずかしくなる。
「ごっ、ごめん。やっぱり今のは」
――無しで、と。離れようと胸を押そうとしたけれど、それを背中に回った彼の腕が阻んだ。
え、っと声を上げられぬまま、そのまま強く抱き締められて、身動きが取れなくなる。でも、ぎゅうぎゅうと軋んでしまうほどの力強さも好きだ。
ピッタリくっついているおかげで、ヒナタくんでいっぱいで。すごく、求められてる……って、実感できるから。
「今のを無しにするのは、もったいなさすぎでしょ」
もったいない意味がよくわからず、緩んだ腕の隙間から、彼を見上げる。でも、見上げた先には困ったように眉尻を下げているヒナタくんで。……やっぱり困らせてしまった。そうはさせたくなかったのに。
「今キスしたら、多分キスだけじゃ終わらない」
言葉の意味を理解するのに、コンマ何秒かかかった。
けれど、その意味もちゃんと理解した。きっと、間違ってはないと思う。
「……言ったでしょ? 我慢しないでいいって」
お腹痛いのだって、すっかりヒナタくんの撫で撫でのおかげで落ち着いてるし。……それに、わたしだってもっともっとを求めてるから。
「だからだよ」
「……え?」
「あおいが、キスの先まで許してくれたから、……驚いたけど、嬉しくて」
「……ヒナタくん」
「でもオレ、欲深いからさ。一回箍外れたら多分、暴走する……」
「ぼ、暴走……」
包み込むように、頬に手が添えられる。そうした彼は、どこか余裕がなさげで、苦しげで。
「……大事にしたいんだ。ひとつひとつ。やさしく、したい。してあげたい」
ああ、さっきは彼の中でいろいろ葛藤があったんだなと。それを言わせてしまって申し訳ないなと。れを律儀にちゃんと答えてくれた彼に、小さく笑った。



