すべての花へそして君へ②


 お腹を撫でていた手が止まり、はだけた浴衣を縫って上へと上がってくる。


「め、捲らないって言ったのに……!」

「捲ってはない。間を縫っただけ」


 慌てて彼の手を止めに入るけれど、無理に上がってこようとはしていない。


「こういうこと、したくなるんだって。わかって」


 代わりに、半ばいじけたような言葉と一緒に絡め取られた。


「さすがに、体調悪いのにこれ以上何かするつもりはない。ていうかはじめからないし。別の部屋だけどみんないるわけだし」


 握った手が引き寄せられ、すっと彼の口元へと移動し、そのままさっきわたしがしたように、彼は絡んだ指にキスをする。


「なのに、可愛いことするんだもん」

「……えっと」

「しかも誘ってくるし」

「そんなつもりでは……」


 でも、全然わからなかったわけじゃない。さすがのわたしでも、そこまではわかる。
 ……でも。もっともっと、くっついてたいって思ったから。今度はわたしの方が、ごろんと彼の方へ。……ちらりと見えた胸板さんには見なかった振りを決め込んで、そっとくっついた。


「……寒い?」


 そんなことあるわけないことも、わかってるんだろうけど。それには素直にううん、と小さく首を振って擦り寄った。


「また、そういうことする……」

「だって、もっと引っ付いてたいんだもん」


 文句を言いつつも、彼の腕が背中に回ってくる。……今度は、背中を撫でてくれた。
 それが嬉しくてまた近寄ると、ヒナタくんの匂いに包まれた。あったかくて、やさしくて。おひさまみたいな。わたしの、大好きな匂い。


「オレの一人我慢大会じゃん」

「……? 我慢しなくていいのに」

「は? いや。あおいさ、ほんとに言ってる意味わかってる?」

「我慢は体に毒だよって言ってる」

「それわかって言ってないじゃん……」


 ため息を落とした彼を見上げると、『いちいち振り回さないでください』そんな風に言いたげな目。とんがっている口が可愛くて、それを指で抓んでみた。


「んん」

「はは。ひなたくんかわいい」

「んー」


 プニプニと。唇を抓んで遊んで、そのあとはほっぺたを突いたり。鼻を抓んでみたり……。ゆったりとやさしい時間に、なぜか少しだけ切なくなる。


「……あおい?」


 こんな、なんでもない時間。特に何をするでもなくて、ただ、目の前の彼とこうしてじゃれ合って、触れ合って、笑い合って……。
 昔のわたしは、こうやってのんびりとした時間さえ、こんなふうに楽しむことも、幸せに感じることもできなかった。それが今、すごく幸せで。満たされてるなって、そう思えるんだ。


「……もう一回キス、したいな」


 だから、それが積み重なるうちに、もっともっとと欲が出る。