お腹を撫でていた手が止まり、はだけた浴衣を縫って上へと上がってくる。
「め、捲らないって言ったのに……!」
「捲ってはない。間を縫っただけ」
慌てて彼の手を止めに入るけれど、無理に上がってこようとはしていない。
「こういうこと、したくなるんだって。わかって」
代わりに、半ばいじけたような言葉と一緒に絡め取られた。
「さすがに、体調悪いのにこれ以上何かするつもりはない。ていうかはじめからないし。別の部屋だけどみんないるわけだし」
握った手が引き寄せられ、すっと彼の口元へと移動し、そのままさっきわたしがしたように、彼は絡んだ指にキスをする。
「なのに、可愛いことするんだもん」
「……えっと」
「しかも誘ってくるし」
「そんなつもりでは……」
でも、全然わからなかったわけじゃない。さすがのわたしでも、そこまではわかる。
……でも。もっともっと、くっついてたいって思ったから。今度はわたしの方が、ごろんと彼の方へ。……ちらりと見えた胸板さんには見なかった振りを決め込んで、そっとくっついた。
「……寒い?」
そんなことあるわけないことも、わかってるんだろうけど。それには素直にううん、と小さく首を振って擦り寄った。
「また、そういうことする……」
「だって、もっと引っ付いてたいんだもん」
文句を言いつつも、彼の腕が背中に回ってくる。……今度は、背中を撫でてくれた。
それが嬉しくてまた近寄ると、ヒナタくんの匂いに包まれた。あったかくて、やさしくて。おひさまみたいな。わたしの、大好きな匂い。
「オレの一人我慢大会じゃん」
「……? 我慢しなくていいのに」
「は? いや。あおいさ、ほんとに言ってる意味わかってる?」
「我慢は体に毒だよって言ってる」
「それわかって言ってないじゃん……」
ため息を落とした彼を見上げると、『いちいち振り回さないでください』そんな風に言いたげな目。とんがっている口が可愛くて、それを指で抓んでみた。
「んん」
「はは。ひなたくんかわいい」
「んー」
プニプニと。唇を抓んで遊んで、そのあとはほっぺたを突いたり。鼻を抓んでみたり……。ゆったりとやさしい時間に、なぜか少しだけ切なくなる。
「……あおい?」
こんな、なんでもない時間。特に何をするでもなくて、ただ、目の前の彼とこうしてじゃれ合って、触れ合って、笑い合って……。
昔のわたしは、こうやってのんびりとした時間さえ、こんなふうに楽しむことも、幸せに感じることもできなかった。それが今、すごく幸せで。満たされてるなって、そう思えるんだ。
「……もう一回キス、したいな」
だから、それが積み重なるうちに、もっともっとと欲が出る。



