そう続く言葉は、音には出せなかった。理由は簡単。
「……誘ってる?」
そう取られても、おかしくない発言だから。
「えっと。……ちょ、ちょっと、だけ」
でも、そう思われても構わないくらいには、それを期待してる自分もいた。
長い長い沈黙が落ちる。爆弾発言できるほどの度胸はあるけれども、さすがにこれを破れる勇気は、わたしには皆無だ。その爆弾発言で沈黙が下りてるのに、何も反応がないことほど怖いものはないなって思う。
(……と、取り消してもらえないかな……)
ユズちゃんにはあんなこと言ったけど、今回に限っては言わないまま後悔した方がよかったかも知れない。言ってからめちゃくちゃ後悔してる。後悔しかない。
未だ長い長い沈黙。聞こえるのは、お互いが小さく息づく音。この状態のまま時を刻むごと、わたしの心臓の鼓動は、落ち着くどころか速さを増した。
(……こ、ここからわたしは、どうすればいいんだろうか……)
取り敢えず、はだけた浴衣とか帯とか、直そっかな。そう思ったときだった。
「……こっち、向いて」
頬を撫でる熱い指先。布が擦れる音。吐息混じりの甘い声。長い長い沈黙を破ったそれは、どこか苦しげで。
「……んっ」
不安げに彼の方を見上げると、ふわっと。何かがやさしく唇を覆う。
それを、彼の唇だとわかるのに、ほんの少し時間がかかった。今までとは、比べものにならないくらい……やさしくて。って、今までがそうじゃないのかっていったらそれは違うんだけど。
「はあ。……あおい」
ヒナタくんから、熱い吐息がこぼれる。
その表情が、やっぱり苦しげで。でも色っぽくって……。
「いっぱいキス、したい」
懇願のように紡がれた言葉に、きゅって胸が締め付けられる。
大人じゃなくて。でも、子どもでもなくて。そんな彼のお願いを、わたしの方こそお願いしたいくらいだけれど……。
「んん……」
やさしいやさしい、触れ合うだけのキス。
何度も何度も彼の熱い唇が触れて。触れるたびに胸の奥底がじんわり熱くなって。蕩けていきそうになる……。
「……ん。……なに?」
そんな、顔いっぱいにキスの雨を降らせていた彼の肩を、トントンと叩く。
もちろん、やめての合図じゃない。彼も、きっとそれはわかったんだと思う。わたしから漏れる声が、いつもと……ちょっと違ったから。
「なんで、ちょっとしんどそうなのかな、って……」
「……は」



