すべての花へそして君へ②


 少しだけ低く掠れた声が、たっぷりと時間をかけて耳に届く。


「あおいが、手の届く範囲にいて。触れられて」


 抱き締める腕が、また強まる。


「手、繋いでたい」


 絡ませるように、片手をぎゅうと握ってくる。


「こうやってずっと、腕の中に閉じ込めておきたい」


 どこにも行っちゃヤダと、言葉を付け足して。


「キスもしたい。もっとご飯だって一緒に食べたいし、こうやって、……一緒に寝たい」


 ずっとそばにいたいと、首元へ吸い付いてくる。
 それが少し、弱々しいような頼りないような。縋り付くような行為に思えて……。彼のがうつってしまったのか。わたしまで少し、寂しくなってしまう。


「……それは、わたしもだ」


 したことないこと、したことないもの……って、探してた。
 でも、自分だって何が一番したいかって言ったら、彼が言ってくれたことそのものだから。


「ずっとずっと。死ぬまでずっと。わたしがずっと一緒にいたいのは、ヒナタくんだけだよ」


 繋いでいる片手に、もう一つをそっと重ねて包み込んで。絡んだ指に、そっとキスを落とした。


「え」


 触れたのはほんの一瞬だった。
 気がついたら、わたしの世界が回っていた。いや、回ったのはわたし自身か。


「あおいちゃん、元気ー?」

「へ……?」


 おかしい。さっきまで、背中側にいたはずなのに。大人しかったはずなのに。


「お腹は? もう大丈夫?」

「え? えっと。うん。今取り敢えずは大丈夫……かな?」


 なんでヒナタくん、目の前にいるんだろ。……なんでわたし、彼に組み敷かれてるんだろ。布団の中で。


「あおいが、……可愛いことするのが悪い」

「ぅえっ!?」


 しかも、組み敷かれているわたしは……なぜか怒られているらしい。


「体調悪いから、全然その気はなかったのに」

「……え」


 ……待て待て待て。あなたなに、スルスルと帯解いてるんですか。


「大丈夫。お腹は捲らない」


 何が大丈夫なんだ何が。
 そう突っ込んではみるものの。このシチュエーションのせいなのか、ちらりと見えている胸板さんのせいなのか。……うるさいぞ心臓さんよ。バックンバクンいってらっしゃいますけど。変態ってバレちゃうからね……? お願いだから、ちょっと静かにし――


「あおいも、少しは期待してる?」


 つーっと、耳下から首筋へ。彼の指先がゆっくりと下りてくると同時、小さく声が漏れる。それに気がついたのかどうなのか、そっと横の髪を掻きわけ、こめかみへとキスを落とした。香った石けんに、本気で酔いそうになる。


「……ねえあおい。オレとじゃないとできないこと。してもいい?」


 まるで言葉でキスされたような、甘い刺激。わたしの体温が上がったせいか。わたしと一緒で、彼も体温が上がったのか。……すごく、熱い。


「た、……たと、えば……?」

「……え?」


 なんかもう、いろいろ必死だった。パニックだった。


「……ヒナタくんは」


 ……何を、したいの……?