少しだけ低く掠れた声が、たっぷりと時間をかけて耳に届く。
「あおいが、手の届く範囲にいて。触れられて」
抱き締める腕が、また強まる。
「手、繋いでたい」
絡ませるように、片手をぎゅうと握ってくる。
「こうやってずっと、腕の中に閉じ込めておきたい」
どこにも行っちゃヤダと、言葉を付け足して。
「キスもしたい。もっとご飯だって一緒に食べたいし、こうやって、……一緒に寝たい」
ずっとそばにいたいと、首元へ吸い付いてくる。
それが少し、弱々しいような頼りないような。縋り付くような行為に思えて……。彼のがうつってしまったのか。わたしまで少し、寂しくなってしまう。
「……それは、わたしもだ」
したことないこと、したことないもの……って、探してた。
でも、自分だって何が一番したいかって言ったら、彼が言ってくれたことそのものだから。
「ずっとずっと。死ぬまでずっと。わたしがずっと一緒にいたいのは、ヒナタくんだけだよ」
繋いでいる片手に、もう一つをそっと重ねて包み込んで。絡んだ指に、そっとキスを落とした。
「え」
触れたのはほんの一瞬だった。
気がついたら、わたしの世界が回っていた。いや、回ったのはわたし自身か。
「あおいちゃん、元気ー?」
「へ……?」
おかしい。さっきまで、背中側にいたはずなのに。大人しかったはずなのに。
「お腹は? もう大丈夫?」
「え? えっと。うん。今取り敢えずは大丈夫……かな?」
なんでヒナタくん、目の前にいるんだろ。……なんでわたし、彼に組み敷かれてるんだろ。布団の中で。
「あおいが、……可愛いことするのが悪い」
「ぅえっ!?」
しかも、組み敷かれているわたしは……なぜか怒られているらしい。
「体調悪いから、全然その気はなかったのに」
「……え」
……待て待て待て。あなたなに、スルスルと帯解いてるんですか。
「大丈夫。お腹は捲らない」
何が大丈夫なんだ何が。
そう突っ込んではみるものの。このシチュエーションのせいなのか、ちらりと見えている胸板さんのせいなのか。……うるさいぞ心臓さんよ。バックンバクンいってらっしゃいますけど。変態ってバレちゃうからね……? お願いだから、ちょっと静かにし――
「あおいも、少しは期待してる?」
つーっと、耳下から首筋へ。彼の指先がゆっくりと下りてくると同時、小さく声が漏れる。それに気がついたのかどうなのか、そっと横の髪を掻きわけ、こめかみへとキスを落とした。香った石けんに、本気で酔いそうになる。
「……ねえあおい。オレとじゃないとできないこと。してもいい?」
まるで言葉でキスされたような、甘い刺激。わたしの体温が上がったせいか。わたしと一緒で、彼も体温が上がったのか。……すごく、熱い。
「た、……たと、えば……?」
「……え?」
なんかもう、いろいろ必死だった。パニックだった。
「……ヒナタくんは」
……何を、したいの……?



