すべての花へそして君へ②


「学力テストとか、対決してみたいよね」

「……は?」

「あ。でも、学年が違うからダメか。じゃあこれはできない」

「…………」

「50メートル走とかどうかな? マラソンとか!」

「…………」

「あ! 柔道とかやってみたい! あと剣道とか!」

「…………」

「料理対決とかもいいかもね! 家事はどっちが手際よくできるかとか!」

「…………」

「あと? あとはねー、カラオケ行って、どっちが上手かとか?」

「…………」

「あとは、なにがあるかなー? 取り敢えずいろいろやってみたいっ!」

「対決ばっかじゃん」

「え? ……あ! そうだね!」

「はあ……」

「どうしたの?」

「構えてたところにボールが飛んでこなさ過ぎたから、心臓さんが驚きすぎて逆に止まった」

「ええ!? だ、大丈ぶ」

「うるさーい。あおいちゃんはちょっと黙りなさい」

「……ごめんなさい」

「はあ。……なにそれ。したいことって、別にオレとじゃなくてもいいじゃん」


 そう言われましても、ちょっとやってみたいって思ったんだもんっ。
 ごろんと彼に背を向ける。


「なに。怒ったの?」

「拗ねてるだけだもん」

「別に嫌だったわけじゃないけど、もっと違うの想像してたんだって」

「どうせわたし、変態だもん」

「いや、今のどこに変態要素があったのかわからないんだけど……」


 その言葉を最後に、二人とも言葉を発さなくなってしまった。耳にも目にも入ってこない彼の存在が、どんどん不安を煽る。
 何も聞こえない。無音で耳が痛い。時々聞こえる風が吹く音も、すぐに消える。


(怒っちゃったかな……)


 なんでわたし、こんなことで拗ねちゃったんだろ。


「よいしょっと」


 そう思っていたのも束の間、もぞもぞと布団が動いた。


「ひっ、ひなたくん……!?」

「うわ、あっつ。ねえ暑くないの? もしかしてまだ寒い?」


 なんかこの人、しれっと布団の中に入ってきたんですけど。驚きのあまり、さっきまで振り向きづらかったのが嘘みたいに振り向けた。


「お腹摩れなくなっちゃったじゃん」


 とかなんとか言って、後ろから抱きついてお腹に手を当ててくる。……いやいや、ものすっごい恥ずかしいから。


「も、もうだいじょうぶっ」

「でも、してあげたいから摩らせて?」

「……わかってやってるんでしょ」

「そうだね」


 結局のところ拒否権のないわたしは、彼の思うがままされるがまま。でも、本当にもう、だいぶよかったはずなんだけどな。


「……きもちい」

「それはよかった」


 そのやさしさに温かさに。彼が満足するまで、身を任せることにした。