「学力テストとか、対決してみたいよね」
「……は?」
「あ。でも、学年が違うからダメか。じゃあこれはできない」
「…………」
「50メートル走とかどうかな? マラソンとか!」
「…………」
「あ! 柔道とかやってみたい! あと剣道とか!」
「…………」
「料理対決とかもいいかもね! 家事はどっちが手際よくできるかとか!」
「…………」
「あと? あとはねー、カラオケ行って、どっちが上手かとか?」
「…………」
「あとは、なにがあるかなー? 取り敢えずいろいろやってみたいっ!」
「対決ばっかじゃん」
「え? ……あ! そうだね!」
「はあ……」
「どうしたの?」
「構えてたところにボールが飛んでこなさ過ぎたから、心臓さんが驚きすぎて逆に止まった」
「ええ!? だ、大丈ぶ」
「うるさーい。あおいちゃんはちょっと黙りなさい」
「……ごめんなさい」
「はあ。……なにそれ。したいことって、別にオレとじゃなくてもいいじゃん」
そう言われましても、ちょっとやってみたいって思ったんだもんっ。
ごろんと彼に背を向ける。
「なに。怒ったの?」
「拗ねてるだけだもん」
「別に嫌だったわけじゃないけど、もっと違うの想像してたんだって」
「どうせわたし、変態だもん」
「いや、今のどこに変態要素があったのかわからないんだけど……」
その言葉を最後に、二人とも言葉を発さなくなってしまった。耳にも目にも入ってこない彼の存在が、どんどん不安を煽る。
何も聞こえない。無音で耳が痛い。時々聞こえる風が吹く音も、すぐに消える。
(怒っちゃったかな……)
なんでわたし、こんなことで拗ねちゃったんだろ。
「よいしょっと」
そう思っていたのも束の間、もぞもぞと布団が動いた。
「ひっ、ひなたくん……!?」
「うわ、あっつ。ねえ暑くないの? もしかしてまだ寒い?」
なんかこの人、しれっと布団の中に入ってきたんですけど。驚きのあまり、さっきまで振り向きづらかったのが嘘みたいに振り向けた。
「お腹摩れなくなっちゃったじゃん」
とかなんとか言って、後ろから抱きついてお腹に手を当ててくる。……いやいや、ものすっごい恥ずかしいから。
「も、もうだいじょうぶっ」
「でも、してあげたいから摩らせて?」
「……わかってやってるんでしょ」
「そうだね」
結局のところ拒否権のないわたしは、彼の思うがままされるがまま。でも、本当にもう、だいぶよかったはずなんだけどな。
「……きもちい」
「それはよかった」
そのやさしさに温かさに。彼が満足するまで、身を任せることにした。



