ふざけていた唇を、これ以上はダーメと、やさしく戒めるように何かに塞がれた。
「……当ててあげる」
そして、落ちてきたそれが離れると同時、目元を覆っていた手も、ゆっくりと離れていく。けれど、離れたと言ってもあまりにも近すぎる距離に、息がうまくできない。
「今、絶対心臓さん大忙しでしょ」
と、彼は胸に手を当ててくる。
「今、絶対体中真っ赤でしょ」
と、縫い付けるように、甘くやさしく手を握られる。そして最後に。
「今絶対、物足りないって。思ったでしょ」
そう言って指を絡ませ、先程よりも長いキスを落としてきた。そして、ちう、と。少しだけ吸い付くようなキスを最後に、そっと離れていった。
「う、遷っちゃうかも知れない、よ」
「腹痛が? はは。遷って元気になるんなら、いくらでもキスするよ」
だから今は、おなかさすらせて?
小首を傾げる可愛い彼に、きゅんメーターが軽く暴走。さっきまではほんとに死ぬかと思ったのに、『お腹痛くなってよかった!』……とか。暴走以外に何という。
「ま、断らせないけどね。扱い易すぎて逆に心配になるよ、あおいさん」
あざとい。わかっててやったな、このヤロウ。
「ま。あおいにしかしませんけどね」
っ、あざといっ。わかってて言ってやがるな、このやろうっ。
「真っ赤になったらいいよ、オレのせいで。きゅんってなってしまえ。オレのせいで」
わ……わかってても、心臓さんがものすごい勢いで働き始めていらっしゃるんですけどっ。
「やめっ。やめてください。ほんとに死んでまうぅ……」
「死んでまえー」
「ぅえ……っ?!」
「オレに殺されちゃいなさーい」
「いっ、いやだっ。 だってもう。死んじゃったらひなたくんとちゅー、できないもんっ」
「………………………………」
「……? ひなたくん?」
「墓穴掘った……」
「……?」
「殺された。マジで安易だな、オレも」
「……死んじゃやだ」
「嫌だよ。オレだってあおいとちゅーしたいもん」
「……ちゅーだけ?」
「……え」
「ちゅーしか、したくない……?」
「……やめてやめて。攻撃してこないで」
「ちゅーしかしたくないんだあ……」
「やめてー。あおいちゃん黙ってえー……」
「だって。わたしは他にもいっぱいしたいもんっ」
「やめてー。お願いだからもういい子で寝てー」
「いっぱいいっぱい。したいこと。あるもんっ」
「……お願いだから。じゃないと、オレの心臓さんがヤバいことになるから――」



