「何かして欲しいことある?」
やさしく頭を撫でてくれるこの手だけで十分だ。
「ううん。なんにもいらないよっ」
ただ、ここにいてくれるだけで嬉しいから。
「そう言われても……あ。お腹摩ってあげよっか?」
「えっ? い、いやいや。さすがにそれは大丈夫」
というよりは、恥ずかしさが勝ってる。
「……掛け合いっこ」
とか言って、ちょっとむくれるのが可愛いんだよなーこんちくしょう……。
「オレが熱出したとき看病してくれたじゃん」
「できてないよ。わたしは、……結局放って行っちゃったもん」
今でも思う。あの時、ちゃんと元気になるまでついててあげたかったって。
「でも、ずっと心配してくれてたでしょ? 今だけはするって、言ってくれたでしょ? おかげで、みんなに心配掛けずに済んだのに、なんでムスッとするのっ」
「ふが」
……と。言う声も鼻を抓む指も、やっぱりやさしくて。
「心配、してくれてありがとう」
「ふが……?」
布団まで運んでくれてありがとうと。氷とか薬とかゼリーとか飲み物とか、ありがとうと。卵粥、美味しかった。改めて、ありがとう、と。
「アヤメさんに、言ってくれてありがとう。あおいの、……おかげ」
――――ありがとう、と。
鼻を抓まれながら見上げたそこには、照れくさそうにもう片方の手で口元を隠しながら視線を逸らす、素直な彼。でも恥ずかしさが限界になったのか、鼻を抓んでいた手が今度は目を覆う。
「みえない……」
「だ、から、その分返したいんだって、……ば」
「と言われましても、もうだいぶいいんですけど……」
「か、……返したいんだって、ば」
もごもご言ってくる彼の手は、ちょっと熱い。
「……ふふっ。ヒナタくん、手熱いね」
「夏だからね」
「さっき顔赤かったね」
「気のせいじゃない?」
「実はわたし、透視できるんだよ」
「嘘つきは誰ですかー」
「ほんとほんと。当ててあげるよ。今も赤いでしょ?」
「暗いからわかんないやー」
「実はわたしの目、赤外線付きなんだよ」
「嘘ばっかり」
「ほんとほんと。当ててあげるよ。今耳も首も赤いでしょ?」
「いいえー。赤くないでーす」
「嘘ばっかり! 見たい見たい!」
「見せませーん。大人しくしてくださーい」
「大人しくしてるよ! 動いてるのは口だけだよ!」
「え。心臓止まってるの。人工呼吸してあげよっか」
「さすがにそれは自分じゃ止めらんな、んんっ」



