すべての花へそして君へ②


「何かして欲しいことある?」


 やさしく頭を撫でてくれるこの手だけで十分だ。


「ううん。なんにもいらないよっ」


 ただ、ここにいてくれるだけで嬉しいから。


「そう言われても……あ。お腹摩ってあげよっか?」

「えっ? い、いやいや。さすがにそれは大丈夫」


 というよりは、恥ずかしさが勝ってる。


「……掛け合いっこ」


 とか言って、ちょっとむくれるのが可愛いんだよなーこんちくしょう……。


「オレが熱出したとき看病してくれたじゃん」

「できてないよ。わたしは、……結局放って行っちゃったもん」


 今でも思う。あの時、ちゃんと元気になるまでついててあげたかったって。


「でも、ずっと心配してくれてたでしょ? 今だけはするって、言ってくれたでしょ? おかげで、みんなに心配掛けずに済んだのに、なんでムスッとするのっ」

「ふが」


 ……と。言う声も鼻を抓む指も、やっぱりやさしくて。


「心配、してくれてありがとう」

「ふが……?」


 布団まで運んでくれてありがとうと。氷とか薬とかゼリーとか飲み物とか、ありがとうと。卵粥、美味しかった。改めて、ありがとう、と。


「アヤメさんに、言ってくれてありがとう。あおいの、……おかげ」


 ――――ありがとう、と。
 鼻を抓まれながら見上げたそこには、照れくさそうにもう片方の手で口元を隠しながら視線を逸らす、素直な彼。でも恥ずかしさが限界になったのか、鼻を抓んでいた手が今度は目を覆う。


「みえない……」

「だ、から、その分返したいんだって、……ば」

「と言われましても、もうだいぶいいんですけど……」

「か、……返したいんだって、ば」


 もごもご言ってくる彼の手は、ちょっと熱い。


「……ふふっ。ヒナタくん、手熱いね」

「夏だからね」

「さっき顔赤かったね」

「気のせいじゃない?」

「実はわたし、透視できるんだよ」

「嘘つきは誰ですかー」

「ほんとほんと。当ててあげるよ。今も赤いでしょ?」

「暗いからわかんないやー」

「実はわたしの目、赤外線付きなんだよ」

「嘘ばっかり」

「ほんとほんと。当ててあげるよ。今耳も首も赤いでしょ?」

「いいえー。赤くないでーす」

「嘘ばっかり! 見たい見たい!」

「見せませーん。大人しくしてくださーい」

「大人しくしてるよ! 動いてるのは口だけだよ!」

「え。心臓止まってるの。人工呼吸してあげよっか」

「さすがにそれは自分じゃ止めらんな、んんっ」