「あ。お布団敷いてある……」
どうやらここは、急用の人に開放してある一室らしい。そう、わたしみたいな奴。
「(まあ、そういうことする輩もいるからね。さすがは老舗)」
「ひなたくん……?」
「あ。ごめんごめん。取り敢えず降ろすよ?」
そんな彼の横顔をぼうっと見つめていると、視線に気が付いたのか、“どうしたの?”とこちらを向かれる。
「う、ううん、なんでもない。……ごめんね。ありがと」
本当は、かっこいいなーって思って見てました。スミマセン。さすがにこの状況だったので控えたけど。
「いいよ。オレこそ、早く気付いてあげられなくてごめんね」
そうやって申し訳なさそうな顔をするもんだから、普通に素直に言っておけばよかった。彼の不器用が移ったかな。
「座ってる方が楽? 寝てる方がいいか、やっぱり」
「うん。くるまるぅー……」
寝るくらいできるのに、それまでお手伝いしていただいた。毛布もどうやら部屋の中にあるみたいで、押し入れから出して掛けてくれて。至れり尽くせり。
「……いや、暑そう」
「はは。でも、寒いよりはいいね」
「いや、普通にしてても暑いから。逆に暑くて苦しくない?」
「……。ちょっと苦しい」
「でしょうね」
切られている冷房のせいで、部屋を涼ませてくれるのは窓から入ってくる夜風だけ。
「ほんとはあんまり窓も開けたくないけどね」
海が近いからと。でも、彼が暑いだろうからと思って少しだけ。
「ごめんね、ひなたくん。これだけ温かかったら、多分落ち着くと思う」
だから……と。気を遣わせるのもと思ったのだけれど、すぐ傍に座った彼に、コツンと頭を叩かれた。
「しんどそうな彼女さんを放ってはおけません」
「……でも」
「邪魔だって言うんなら、オレは部屋に帰って枕濡らすけど?」
「……邪魔なんて思うわけない」
引き上げた布団で口元を隠す。いて欲しいのはほんと。邪魔なんて思うわけがない。けれど、彼だって今日はアクシデントで海に入ったわけだし、寝てないみたいだし……。
「意地悪するのは好きだけど、さすがに今するほどオレ、最低じゃないよ」
だから、心配させて? オレはしてもいいんでしょ?
やさしく笑う彼はきっと、心配の掛け合いっこのことを言っているのだろう。そう言われては断れるわけなどないので、口元まで上げていた布団を目元まで引き上げて、小さく何度も頷いた。



