優しく抱え上げてくれた彼は、急ぎながら、でもあまり振動を与えないように運んでくれていた。そんな気遣いまでしていただいて……。ただの腹痛なのに。ずびばぜんっ。
「薬は? 飲んだ?」
小さく一度頷く。
「布団、毛布もあった方がいいね。フロント寄っても聞いても大丈夫?」
もう一度頷く。
声すら、ちょっと出すのが億劫なくらいにはしんどい。痛い。お腹の前をぎゅっと握り、ただひたすら痛みに耐えた。
折角の旅行なのに。みんなと楽しい思い出、作ろうと思ったのに。……ついついはしゃぎすぎてしまった。完全に自業自得だ。
「……ていうかさ、アイと水着がどうのとか話してたでしょ。明日は絶対パーカー羽織ってね。下も短パンとか履いててよ」
(ん……?)
「お祭りは楽しかった? 冷たいもの食べ過ぎには気を付けてね。 こっちはね、みんなのアホな動画の鑑賞会してたんだよ。やっぱり何回見てもアホだよね、みんな」
(……ひなたくん)
不器用さんなりに、気を紛れさせようとしてくれてるんだって。バレバレだったけど、その優しさがすごくすごく嬉しくて。
「あとチカがね、あおいのすまほこっそり盗もう計画してたよ。『パスワードわかんないでしょ』って言ったらすっごい落ち込んでた」
「はは。……画像は来たけど、はじめてのじゃ、なかったから。安心していいのに……」
「あ。無理してしゃべんなくていいよ。しんどいでしょ。聞いてるだけでいいから」
「とーまさんくれたの、ね? たぶん、自分もきっと恥ずかしかったんじゃないかなって、思うんだけど……」
「え。だ、だからしゃべんなくていいって……」
そう言う辺り、やっぱり気を遣ってくれたんだって。優しさを感じる度に、嬉しさも愛おしさも増していく。
「前に、ね? あかりさんからもらった写真。あったんだ、けど……」
「はあ。……うん。それで?」
大人しくしとけばいいものを……。そうやって小さくため息をつく彼に、これだけは言っておきたい。
「そ、れね。あげちゃったの。つばきさんに」
「え? あおいが? 珍しい」
「知ってて欲しかったの。自分の子が、……ちゃんと笑えてるかどうか」
自分が、そうできなかった分。大好きな友達には、その親には、ちゃんと幸せに笑えているのかどうかって、知ってもらいたかった。実際は、わたしもちゃんと愛されていたんだけれど。それもちゃんと、今はわかってる。
「だからもう。ちっちゃな幼馴染み同士が写ってる写真は……持ってなくて」
「トーマらしいね」
「ね……? その写真だけ、送ってくれてた。《遅くなってごめんね》って。書いてあったよ……?」



